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ID番号 06417
事件名 懲戒戒告処分取消等請求事件
いわゆる事件名 吹田千里郵便局事件
争点
事案概要  研修会における映画上映の妨害、上司に対する暴言等を理由とする国家公務員に対する戒告処分が、裁量権の濫用にも当たらないとされた事例。
参照法条 国家公務員法98条1項
国家公務員法99条
国家公務員法101条1項
国家公務員法82条
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
裁判年月日 1994年11月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (行ウ) 74 
裁判結果 棄却
出典 労働判例666号20頁/労経速報1556号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 原告両名は、本件処分は国家公務員法所定の懲戒事由がないのにされた違法な処分である旨主張する。
 しかし、原告X1の二1(二)ないし(四)の各行為、原告X2の同(二)(五)の各行為は、前記認定のように、本件研修が同局の施策として勤務時間内に実施され、右研修に専念すべき義務があるにもかかわらず、右研修開始後、研修用映画が上映されるに際し、同局管理者に対して大声で抗議したり、椅子を蹴り、電灯を点灯するなどして映写とその続行を妨害したものである上、原告X2がこのような行為を正当化して同局管理者に対して不穏当な発言をしたものであって、上司の職務上の命令に違反し(国家公務員法九八条一項)、官職の信用を傷つけ(同法九九条)、職務専念義務に違反する(同法一〇一条一項前段)ものであることは明らかであり、国家公務員法所定の懲戒事由に当たるものというべきである(同法八二条)。
 したがって、原告両名の右主張は採用することができない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕
 原告両名は、本件研修実施までの当局の対応やその当日における当局の対応の問題性を考えれば、原告両名の質問、発言内容にも合理的理由が認められるのであるから、本件処分は、裁量権の範囲を著しく逸脱した違法な処分である旨主張する。
 しかし、公務員について、国家公務員法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものというべきであり、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきであり、したがって、裁判所が右の処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであるかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである(最高裁昭和四七年(行ツ)第五二号同五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁)。
 そして、前記認定の本件研修開始に至る経緯、とりわけ、同局は、A研との話し合いそのものを拒否したものではなく、話し合いの開催を繰り返し求めた後、同和対策の年間スケジュール上、これ以上A研側との交渉妥結を待って本件研修の実施を遅らせることが無理となった時点で、本件研修の実施に踏み切ったものであること、本件研修前にA研との話合いが開催されず、推進委員会も開催されなかった原因の一端は、A研側が事前の話合いに出席する者の人数に固執し、当局側との話合いに柔軟に対処しなかったことにもあるものと認められ、同局側のみにその責任があるとか同局側の対応が誠意に欠けるものであったとはいえないこと、仮に、原告両名の主張のように、第三九〇〇号通達に同局が任意団体であるA研との意見交換の場を積極的に持ち、建設的な意見を聞くことを求める趣旨が含まれると仮定したとしても、このような経緯に照らせば、同局が右通達に反する対応をしたとは認められないこと、原告両名は、A研の会員として、本件研修実施前から、このような推進委員会が開催できなかった原因と経緯を充分承知していたはずであるのに、前記のような質問の形式を借りた抗議に同調して大声で発言したり、電灯を点灯するなどして研修の続行を妨害したものであること、B課長は、Cや原告らの前記発言に対して、早い機会に別途説明する旨繰り返し述べており、その対応が誠意に欠けるものであったとは認められないこと、本件研修は、原告両名及び他の研修参加者の妨害行為の結果中止を余儀なくされており、原告両名の行為は、職場規律を著しく乱すものであったことなどの点に照らすと、原告両名の行為が合理的な理由のあるやむを得ないものであったとは到底認めることはできず、懲戒権者の裁量権の行使に基づく本件処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められないことは明らかであり、本件処分が違法であるということはできない。