全 情 報

ID番号 06424
事件名 退職金等請求、損害賠償請求事件
いわゆる事件名 タビックスジャパン事件
争点
事案概要  取締役に対する退職慰労金は株主総会の決議によってその請求権が発生するのであり、右決議がなされていないとして退職慰労金の請求が却けられた事例。
 在職中に、被告会社の用紙で作成した書面を顧客に送付したこと等を理由とする退職金不支給につき、懲戒解雇事由に当たるとまではいえず、退職金請求は権利濫用には該当しないとされた事例。
 競業会社に就職した者に対する退職金不支給につき、従業員を引き抜いた等の事実は認められないとして、退職金請求が権利濫用には該当しないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号の2
労働基準法89条1項9号
商法269条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 競業避止義務
賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
賃金(民事) / 退職金 / 退職慰労金
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
裁判年月日 1994年12月12日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 17797 
平成6年 (ワ) 59 
裁判結果 一部認容・棄却
出典 労働判例673号79頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職慰労金〕
 原告X1は、取締役、会社間の委任契約が退職慰労金の支給を当然の前提とする有償契約であるとして、委任契約に基づき退職慰労金を請求している。
 そこで検討するに、取締役、会社間の委任契約は、特約がなければ、無償であると解されるが(商法二五四条三項、民法六四八条一項)、特別の事情がない限り、有償とする旨の明示又は黙示の特約が存在すると解するのが相当である。しかし、退職慰労金は、商法二六九条の報酬に当たるから、その請求権の発生には株主総会の決議を要するといわなければならないところ(なお、本件において、被告会社の定款にその額の定めがあるとの主張、立証はない。)、被告会社において右株主総会の決議を経ていないことは当事者間に争いがないのであるから、委任契約自体を根拠とする原告X1の退職慰労金請求は理由がない。
〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 原告X2は、被告会社に在職中、被告会社の用紙で作成した右書面を被告会社に無断で顧客に送付したものであり、右書面には、従業員が在職中に取引先に出す退職の挨拶状としては、退職の経緯、退職後の業務などに関する記述の点で不適切な表現がみられる。しかし、原告X2の右行為が別紙記載の就業規則一〇六条九号、二八号(一〇七条四号)などの懲戒解雇事由に該当するとはいえないし、右のような事情があるからといって、退職金請求が権利の濫用に当たるとすることはできない。そして、被告会社主張のように原告X2が他の原告らの行為について共謀したとの事実を認めるに足りる証拠もない。
 そうすると、原告X2は、被告会社に対して退職金請求権を有するというべきである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕
 原告X3は、平成五年二月二〇日ころ、A会社に就職し、現在A会社鹿児島支店長の地位にあること、原告X3は、被告会社の南九州支店長であったが、原告X1と懇意であったことから、原告X1が被告会社取締役を退任したのをきっかけに自らも退職したこと、原告X3は、被告会社南九州支店の顧客に対してA会社としてダイレクトメールを送付したこと、被告会社南九州支店の従業員一六名全員が退職してA会社に就職したこと、以上の事実が認められる。
 (二) ところで、被告会社は、原告X3の退職金請求についても権利の濫用であると主張している。しかし、原告X3が被告会社南九州支店の従業員を引き抜いたこと、すなわち、右従業員に対して勤務先を被告会社からA会社に替わるよう積極的に働きかけたとの事実や被告会社南九州支店の顧客名簿を持ち出して利用したとの事実、被告会社主張のように原告X3が他の原告らの行為について共謀したとの事実を認めるに足りる証拠は存しない。
 したがって、原告X3には別紙記載の就業規則一〇六条六号などの懲戒解雇事由や権利濫用に該当するような事実はなく、原告X3は、被告会社に対して退職金請求権を有するというべきである。