全 情 報

ID番号 06475
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 仙台中央電報局事件
争点
事案概要  年休の指定、祝日代休日の指定、勤務割交替の申出がそれぞれ時季変更権の行使等により拒否されたにもかかわらず当該日に出勤しなかった原告らに対し懲戒処分、貸金カットが行われたので、処分の無効確認、賃金支払、損害賠償の支払が訴求された事例(一部認容)。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季指定権 / 指定の時期
年休(民事) / 時季変更権
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 違法行為への参加
裁判年月日 1985年4月25日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ワ) 723 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 労働判例453号87頁/訟務月報32巻1号38頁
審級関係 控訴審/03111/仙台高/昭62.12.15/昭和60年(ネ)257号
評釈論文
判決理由 〔年休-時季変更権〕
 ところで、労基法三九条が定める労働者の年次有給休暇の権利(年休権)は、同条一項、二項の要件を充足することにより法律上当然に発生し、労働者が右要件の下に年休の時季指定をしたときは、客観的に同条三項但書所定の「事業の正常な運営を妨げる」事由が存在し、かつ、これを理由に使用者が時季変更権を行使しない限り、労働者の当該労働日の就労義務は消滅するものであり、また、年休の利用目的は労基法の関知しないところであるから、休暇をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨であると解するのが相当である(最高裁判所第二小法廷判決昭和四八年三月二日民集二七巻二号一九一頁、二一〇頁)。
 そして、右のような労働者の権利としての年休制度を、使用者の事業運営上の利益との調和のもとに実質的に保障するとの観点に立てば、単なる繁忙とか人員不足との理由が時季変更権行使の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するものでないことは明らかであって、使用者は、本来、予想される業務量との対応において、労働者が年休を取ったとしても直ちに事業の正常な運営に支障を来さないだけの人員を配置しておく義務を負担しており、その上で、事前予測の困難な事態の発生など特別な場合にはじめて時季変更権の行使が許されると解すべきこととなる。したがって、使用者が業務体制等の理由からやむを得ず日常の業務を支障なく処理するに必要最低限の人員しか配置しえず、誰か一人が年休を取得すれば直ちに事業に支障を来すような業務形態を採用した場合においては、あらかじめ代務者を確保しておくか、少なくとも年休時季指定のあった都度代務者を確保するために最大限の努力を払うことが使用者に対する法的義務として当然に要求されてくるのであり、このことは、被告の宿直宿明勤務のように「最低要員配置」とすることに職員側の同意があった場合においても格別異とする理由はない。
〔年休-年休の自由利用(利用目的)-違法行為への参加〕
 もっとも、年休の利用目的が使用者の干渉を許さない労働者の自由に属するものであるといっても、労働者が犯罪行為など企業秩序に著しい混乱を招来させる結果となる反社会的行為のために年休を利用し、しかも、時季指定の際そのような利用目的の反社会性が明白な場合(例えば、労働者自らが反社会的な利用目的を公言しているなど)には、当該時季指定を無効なものとして、使用者においてこれを拒絶しうる余地もあると解されるが、それにしても、その判断は具体的、客観的に行われなければならず、単なる反社会的利用の危険、あるいは疑いといった程度の使用者側の主観的判断のみによって労働者の年休取得を制限するがごときは、年休自由利用の原則を形骸化することとなり許されないものといわなければならない。しかるところ、本件においては、原告らの各年休時季指定が被告において例外的に拒絶しうるような事情を附帯させていたとの主張・立証はなされていないから、この点においても被告の主張は採用しえないものである。
〔年休-時季指定権-指定の時期〕
 被告の就業規則には交替服務に従事する職員の年休請求について休暇の前々日までに時季指定をしなければならない旨定められていること及び原告Xの年休請求が右の規定に違背して勤務の当日になされたことはいずれも当事者間に争いがない。しかしながら、年休の請求時期に関する右就業規則等の定めが、勤務割変更による代務者の確保を容易にし、できる限り時季変更権の行使を不要ならしめることを主たる目的としていると認められることは前記のとおりであるから、当該時季指定が時季変更権の要否を判断する時間的余裕さえも与えない時期になされたような特別な場合はともかく、単に右規定に反したとの一事をもって直ちにこれを無効とすることは、年休時季指定の行使時期に条理上要求されるもの以上の格別の規制を加えていない労基法の規定に抵触して許されず、時季指定が右就業規則等に定められた時期に遅れたことは、右特別な場合を除き、あくまでも代務者補充の困難等時季変更権の要否を判断するにあたっての一事情として考慮されるにすぎないものと解するのが相当である(〈人証略〉によれば、実際の運用においても、昭和五三年当時、第一通信課では職員の年休請求が休暇当日になされることがしばしばあったが、これが就業規則等の定めに違背するとして直ちに無効とされるような例はなかったことが認められる。)。
 しかるところ、原告Xの年休時季指定は、前記認定のとおり就労開始時の約五時間前になされているから、これが被告において時季変更権行使の要否を判断する時間的余裕さえも与えないというような特別な場合に該当するとまでは言い切れず、したがって、同原告の年休請求が就業規則に定める時期制限規定に違背したことを理由に右年休時季指定が無効であるとする被告の主張は失当である。