全 情 報

ID番号 06534
事件名 不当利得返還請求事件
いわゆる事件名 日鉄鉱業事件
争点
事案概要  じん肺の被災者等が、じん肺につき会社に対して損害賠償を請求する訴訟を提起して勝訴して、右勝訴判決に基づく強制執行により認容額を取得した上で、労働者災害補償保険法に基づいて保険給付を受給する場合には、右給付額の範囲で右強制執行により取得した金銭は不当利得に当たるとしてその返還が請求された事例。
参照法条 民法703条
労働基準法84条2項
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1995年6月7日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 14912 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 時報1548号92頁
審級関係
評釈論文 高橋眞・判例評論451〔判例時報1570〕197~200頁1996年9月1日
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 2 本件被告らが受給していた労働者災害補償保険法による傷病補償年金及び福祉施設給付金並びに厚生年金保険法による障害年金の各給付事由は、原事件高裁判決において認定された原告の損害賠償債務の発生事由と同一である。
 労働者災害補償保険法及び厚生年金保険法による保険給付は、受給権者に対する損害の填補の性質をも有するから、労働者災害補償保険法による保険給付については労働基準法八四条二項を類推適用し、厚生年金保険法による保険給付については衡平の理念に照らし、使用者は、保険給付額の限度において民法による損害賠償の責を免れると解されている。即ち、現実に保険給付がされた場合は、損害が填補され、受給権者の使用者に対する損害賠償請求権が保険給付額の限度において失われると解されている。原事件高裁判決においても、右のように解して、本件被告らが原事件の控訴審の最終口頭弁論期日である平成三年一一月三〇日までに受給した保険給付の合計額を財産上の損害額から控除している。
 従って、本件被告らは、最終口頭弁論期日である平成三年一一月三〇日より後にも保険給付を受給しているのであるが、本件被告らが同日より後において保険給付を受給する度に、保険給付額の範囲で財産上の損害が填補され、本件被告らの原告に対する損害賠償請求権は、その範囲で失われていくというべきである。このような実体法上の効果は、原事件の控訴審の口頭弁論終結時における本件被告らの損害賠償債権額を認定した原事件高裁判決が確定していること及び原事件高裁判決の債務名義額について減額の手続がされていないことからは、何ら影響を受けないものである。また、右解釈は、最高裁判所昭和五二年一〇月二五日第三小法廷判決に沿うものであり、労働者災害補償保険法の規定及びその法意並びに昭和五五年法律第一〇四号による改正とも何ら抵触するところはない。
 3 本件被告らが平成三年一一月三〇日より後において受給した保険給付額の範囲で財産上の損害が填補されるとした場合、填補される額は、本件被告らの損害発生日から受給した時までの年五分の割合により計算される額を控除して算定するのが衡平上相当であり(算定に当たっては、損害発生日から受給した時までの期間は、原事件高裁判決に従い、年単位とする。)、本件被告らの原事件高裁判決に基づく損害賠償請求権は、右填補された額に右判決が認めた遅延損害金を加算した範囲で減少したことになる。