全 情 報

ID番号 06610
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 三和機材事件
争点
事案概要  業務上必要性がある場合には転籍出向を命じることができる旨の就業規則の改正につき、特段の事情のない限り、その対象者の同意を要するものであり、合理性があるとした事例。
 会社再起のために一部門を独立させた別会社への転籍命令拒否を理由とする懲戒解雇を無効とした事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 配転・出向・転籍規定
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1995年12月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ワ) 3693 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 タイムズ909号163頁/労経速報1589号3頁/労働判例689号31頁
審級関係
評釈論文 太田晃詳・平成8年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊945〕390~391頁1997年9月/野田進・ジュリスト1124号129~132頁1997年12月1日
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-配転・出向・転籍規定〕
 (一) 就業規則の変更は、それによって労働者にとって重要な権利や労働条件に関し不利益を及ぼすものであれば、当該条項がその不利益の程度を考慮しても、なおそのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生じるものというべきである。
 そこで、本件就業規則変更の必要性についてみると、右に認定したとおり、変更前の就業規則は、業務命令として出向を命ずることができると定めていたが、その出向とは関連会社に期間を定めて勤務させるものをいうに過ぎなかったから、従来の使用者との間の労働契約関係を終了させ、新たに出向先との間の労働契約関係を設定する転籍出向をも対象とする趣旨と解することはできず、本件就業規則変更により転籍出向を明文化したことによって、はじめて被告は転籍出向について業務命令を発することができる根拠が与えられたというべきである。
 被告においては、営業部門及び製造部門に対してそれぞれの責任意識を明確化させるとともに、営業部門の社員の待遇をその業務内容に適合したものとすることが従来からの課題とされていたところ、和議再建中であるために資金調達が不自由であったことが大きな要因となって、また、長期的展望の下に被告の事業の見直しや人材確保のために企業イメージを変える必要があったことから、和議条件の履行状況を勘案しながら新会社の設立を決定するに至ったものであり、前記認定の倒産の経緯に鑑みれば、経営方針として理解するに足るものであって、被告の再建に必要な判断であったということができる。したがってまた、このような新会社の従業員となるべき者を被告の従業員の転籍出向によって充足させることについても、その人数及び対象者の選定はともかくとして、被告の存続を図り、かつ、新会社の事業を成功させるためには、有効な方法であったとみることができる。そうすると、転籍出向に関する規定を新たに設けた本件就業規則変更には業務上の必要性があったものというべきである。
 (二) ところで、本件就業規則変更は、右のとおり、被告との労働契約関係を終了させ、新たに出向先との労働契約関係を設定する転籍出向を内容とするものであるから、従業員の権利及び労働条件等に重大な影響を及ぼすものであることは明らかである。したがって、被告が変更された就業規則に基づく業務命令として従業員に対して転籍出向を命じうるためには、特段の事情がない限り、こうした不利益を受ける可能性のある従業員の転籍出向することについての個々の同意が必要であると解するのが相当である。このような見地に立って、本件就業規則変更をみると、従業員が現実に不利益をうけるかどうかは、転籍出向命令を受けた当該従業員の意思にかかっているのであるから、これが一般的に従業員に対して与える影響の程度は小さいものということができる。
 (三) 以上によれば、本件就業規則変更は、これに基づいて業務上の必要により発せられる転籍出向命令が、特段の事情のない限り、その対象者の同意を要するものであって、従業員にことさら不利益となるとはいえないから、その効力を否定することはできないというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 (四) 以上の事情を総合考慮すると、被告の側において、会社再建のために新会社を設立し、そこへ営業部員を転籍出向させる必要が認められ、また、平成三年五月九日の従業員に対する発表以来、被告が個別に転籍出向対象者の説得に当たり、原告以外全員の同意を得、最終的には原告一人が会社の方針に反対している段階に至っているからといって、原告の本件転籍出向命令拒否が信義則違反・権利濫用に当たるとする事情があるとはいえず、本件解雇が整理解雇の法理に照してやむを得ないものであると認めることもできないといわざるをえない。
 なお、被告は、被告とA会社とは、法人格こそ違うが、実質上同一の会社とみることができると主張するが、A会社が被告の営業部門を分離独立させたものに過ぎず、A会社の役員構成が被告のそれと重複し、A会社の株主構成も被告及びその関係者によって占められ、原告の業務内容、就労場所、賃金、勤務時間等の労働条件が当初は従来被告に勤務していたころのものと変わるところがないとしても、前記のとおり、両社の資産内容に相当の開きがあり、事業の内容も異なることなどからすると、それぞれの将来が必ずしも浮沈を同一にするとは限らず、新会社での労働条件も変更が予定されているのであるから、各従業員の処遇内容について両社が実質的に同一であると認めることはできない。
 (五) したがって、本件解雇は、解雇権を濫用してなされたものとして無効であるから、原告は、本件解雇がなされた平成三年七月五日以降も被告の従業員として労働契約上の権利を有する地位にあるというべきである。