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ID番号 06716
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 朝日火災海上保険事件
争点
事案概要  労働組合法一七条所定の要件を満たす労働協約により、定年年齢が引き下げられ、退職金が減額される場合、非組合員にもその協約の効力が及ぶとした原判決を変更し、退職金を切り下げる部分に関する限り、法的規範性を認め難いとした事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法89条1項3の2号
労働組合法17条
体系項目 就業規則(民事) / 意見聴取
退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 1992年12月21日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ネ) 417 
平成1年 (ネ) 459 
裁判結果 棄却,一部変更
出典 民集50巻4号1156頁
審級関係 上告審/06785/最高三小/平 8. 3.26/平成5年(オ)650号
評釈論文
判決理由 〔就業規則-意見聴取〕
〔退職-定年・再雇用〕
 (5) 昭和四六年一〇月一日改訂の退職金規定と、昭和五四年度以降は退職金算定の基準となる本俸を昭和五三年度のそれに凍結するとの労使間の合意に従い、昭和五八年七月一一日に定年退職した一審原告の退職金額を算定すると、昭和五三年度の一審原告の本俸二八万二八〇〇円に七一を乗じた二〇〇七万八八〇〇円となるところ、本件労働協約及び本件就業規則に従って算定した退職金額一八五〇万四〇〇〇円は、右金額を一五七万四八〇〇円下回ることになる。
 以上の各事実に照らして考えると、一審被告会社においては、本件労働協約が締結され、本件就業規則が制定された昭和五八年七月当時において、昭和四六年一〇月一日改訂の退職金規定に従い、かつ、退職金算定の基準となる本俸を昭和五三年度のそれに凍結するとの労使間合意に基づいて算定された金額を上回るような金額の退職金を支払うことは極力抑制すべき必要性があったことは肯認することができるのであるが、他方、右のようにして算定された金額を更に下回る退職金額としなければならないような必要性を肯認するに足りる事実関係を見いだすことはできない。
 そして、一審原告は、前記のとおり本件労働協約の締結と同時に定年退職となるものであって、本件労働協約による退職金規定の改訂の後に更に勤務を継続し、その間における退職金算定の基準となる給与額の上昇により、支給率の改訂による減少分を補うことができる余地は皆無であることをも合わせ考えると、前記認定の代償金支払の点を考慮しても、本件労働協約及び本件就業規則は、一審原告に対する退職金額を、昭和四六年一〇月一日改訂の旧退職金規定に基づく退職金額である前記金二〇〇七万八八〇〇円を下回る金額に切り下げる部分に関する限り、これを一審原告に適用することを不当とすべき特段の事情があり、また、当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を欠くものというべきである。
 3 そうすると、一審原告は、昭和五八年七月一一日に一審被告会社を定年退職したことに伴い、一審被告会社から金二〇〇七万八八〇〇円の退職金の支払を受け得るものであるところ、一審被告主張の抗弁4の事実(一審被告が一審原告に退職金一八五〇万四〇〇〇円を支払った事実)は、当事者間に争いがないから、一審原告の一審被告に対する退職金請求は、金一五七万四八〇〇円及びこれに対する弁済期の後である平成元年八月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当であり、その余は失当である。