全 情 報

ID番号 06741
事件名 地位保全仮処分申立事件
いわゆる事件名 学校法人徳心学園事件
争点
事案概要  私立の高等学校の教員が文化祭に欠勤し登山大会に参加したことで懲戒手続が進められることになり、このままでは懲戒解雇になるおそれがあり、退職届を出した方がよいと校務主任から勧められるままに退職届を出したが、後に撤回したにもかかわらず学校側から解職辞令(合意退職)が出され、右合意退職が錯誤により無効であるとして争った事例。
参照法条 民法95条
労働基準法2章
民事保全法23条2項
体系項目 退職 / 合意解約
退職 / 退職願 / 退職願と錯誤
賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟
裁判年月日 1995年11月8日
裁判所名 横浜地
裁判形式 決定
事件番号 平成7年 (ヨ) 380 
裁判結果 一部認容(抗告)
出典 タイムズ910号126頁/労働判例701号70頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-合意解約〕
〔退職-退職願-退職願と錯誤〕
 債権者が神奈川高体連の登山大会実行委員に委嘱されてその準備を進めていった経緯、A祭における債権者の校務等勘案すると、労働基準法に則らない有給休暇制度の下になされた、登山大会参加の出張を許可しないでA祭に出勤して生徒の指導をするようにとの債務者の業務指示命令は、不合理で適切を欠き、それ故、債権者がこれに従わないで欠勤して登山大会に参加したことが懲戒解雇事由である業務指示命令違反、越権専断行為とみなされるものではなく、仮に、形式的にこれが懲戒解雇事由に該当するとしても、前記認定、説示からすると、これを理由とする懲戒解雇は解雇権の濫用として無効になるということができ、結局、本件においては、債務者が債権者を懲戒解雇する可能性はなかったものである。
 したがって、債権者には懲戒解雇事由はなく、懲戒解雇の可能性がなかったのに、債権者は、B校務主任の説諭により懲戒解雇になると誤信して本件退職願を提出したのであって、その退職の申込みの意思表示には動機の錯誤があるというべきで、これが債務者側に表示されていたことは明らかであるから、要素の錯誤となり、本件合意退職は無効である。
〔賃金-賃金・退職年金と争訟〕
 債権者が、解職辞令を受けた前三か月間に債務者から平均一か月四〇万七八一〇円の賃金を支給されていたことは争いがなく、債権者が賃金を唯一の生活の糧とする労働者であり、本案判決の確定を待っていたのでは回復し難い損害を被るおそれがあるということができる。しかして、右賃金のうち通勤手当(一か月二万〇五一〇円)については、現実になされた通勤に伴う費用を弁償するために支給されるものであるから、保全の必要性は認められないが、右通勤手当を控除した賃金三八万七三〇〇円の仮払については、第一審の判決言渡の日までの保全の必要性が認められる。しかし、従業員たる地位にあることを仮に定める仮処分は、保全の必要性があると認めることはできない。