全 情 報

ID番号 06754
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 バイクハイ事件
争点
事案概要  バイク便会社の元従業員が右会社を退職後に新たにバイク便会社を開業して行ったバイクによる配達業につき、元のバイク便会社が、秘密保持義務違反及び競業避止義務違反を理由に損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法1条2項
民法709条
不正競争防止法2条1項7号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 競業避止義務
裁判年月日 1995年12月22日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 1426 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1589号103頁/タイムズ929号237頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕
 1 労働者は、その負担する誠実義務の一つとして競業避止義務を負うと解されるが、労働者には職業選択の自由が保証されていることから、商法等により特別規定された場合を除き、雇用関係終了後は、当事者間で特約された場合において、しかも合理的な範囲においてのみ競業避止義務を負うものと解するのが相当である。もっとも、労働者が雇用関係中に知りえた業務上の秘密を不当に利用してはならないという義務は、不正競争防止法の規定及びその趣旨並びに信義則の観点からしても、雇用関係の終了後にも残存するといえようが、右を不正、不法と評価するに際しては、労働者が有する職業選択の自由及び営業の自由の観点から導かれる自由競争の原理を十分斟酌しなければならない。
 右観点からすれば、雇用契約上、雇用関係終了後の競業避止義務及び秘密保持義務について何らの規定がない場合において、労働者が雇用関係終了後に同種営業を開始し、開業の際の宣伝活動として、従前の顧客のみを対象とすることなく、従前の顧客をも含めて開業の挨拶をすることは、特段の事情のない限り、自由競争の原理に照らして、許されるものというべきである。
 2 これを本件について見るに、被告らがA会社の開業に際して作成した二通のチラシは、特別、原告を誹謗し、中傷する内容を含むものではないし、一般的な開業の挨拶と料金の掲載程度に止まるものであり、被告らの開業の際の宣伝活動は右チラシの電話帳を利用したダイレクトメールの送付と無作為のポスティングが中心になっており、そのチラシの投函の過程で原告の従業員であった際に回っていた顧客に開業の挨拶をしたに止まるものであるから、信義則上負担する前記義務に違反するものであるとは評価することは困難であるというべきである。
 したがって、不法行為損害賠償請求権に基づく原告の請求は理由がない。