全 情 報

ID番号 06777
事件名
いわゆる事件名 関西フェルトファブリック事件
争点
事案概要  部下の横領行為についての監督責任に重大な過失があったとしてなされた営業所長に対する懲戒解雇につき、裁量権を逸脱しているとはいえず有効とした事例。
 解雇予告手当と会社の債権を相殺することにつき、右手当は実質的に賃金であり、全額払の原則に違反するとした事例。
 自宅待機命令中の賃金につき、本件自宅待機命令は懲戒処分ではなく、使用者の指揮監督権に基づく労働力の処分の一態様であって業務命令の一種であり、その間の賃金支払を会社に命じた事例。
参照法条 労働基準法20条
労働基準法24条
労働基準法89条1項1号
民法1条3項
民法505条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 休職処分・自宅待機と賃金請求権
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 部下の監督責任
解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当の支払方法
裁判年月日 1996年3月15日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成7年 (ヨ) 2203 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例692号30頁/労経速報1604号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-部下の監督責任〕
 2 本件解雇の相当性について
 債権者は、Aの本件横領行為は長年にわたって行われてきたものであり、Aに対する監督責任は、歴代の所長と同一の程度であり、債権者だけが懲戒処分を課せられる理由はない。また、債務者の債権者に対する本件懲戒処分は厳格過ぎる旨主張する。
 本件疎明資料(〈証拠略〉)及び前記一の1で認定した事実によれば、債権者は、歴代の広島営業所長と異なりAが横領した金員で共に飲食をし、商品の贈与を受け、不良債権及び仮払金の処理をさせていたものであり、債権者がそのような行為に及ばなければ、Aにおいて横領額を増やすこともなかったことや、Aが銀行への入出金への操作による差額は、債権者が広島営業所在籍期間(所長代理をも含む)で約金三〇〇〇万円にも及んでいたこと、Bは既に退職していたが、功労として債務者から贈与を受けていた株式を相場の三分の一の価格で譲渡させられ、本件横領行為が発覚した当時の広島営業所長であったCは給与・賞与につき一年間一〇パーセントの減俸と平成七年九月引責退職したものである。その他、代表者及び専務取締役であったDは、平成七年度賞与夏及び冬分を支給せず、今後も支給しないことになり、平成七年三月まで専務取締役兼管理本部長、同年四月以降非常勤取締役であるEは四年間一〇パーセントの減俸を、元財務担当専務取締役、現在顧問のFは顧問料を二年間五〇パーセント減俸するとの各処分を受けている。以上の各人の本件横領に対する関与と処分の内容からすれば、債権者に対する本件解雇は社会通念上著しく公平を欠き裁量権を逸脱しているとまではいえない。
〔解雇-解雇予告手当-解雇予告手当の支払方法〕
 予告手当は、実質的には賃金であるから全額支払いの原則(法二四条)の趣旨から実際に支払われるべきであり、労働者の真に自由な意思に反して使用者は労働者の行為に基づく損害と相殺することは許されない。
 債務者は、平成七年六月二九日債権者に対し、五月分の給与金三三万三四四〇円と予告手当金五一万三七二〇円を交付した後債権者から右交付金から自ら債務者の損害賠償の填補として右金員全額を支払ったとするが、債権者が右金員を支払ったのは懲戒解雇されて間がない時で、損害賠償について十分検討する間もなく債務者の右処理に従ったものであるから、債権者において全く自由な意思に基づいて行ったものであるとまでは言えない。したがって、債務者の右行為は許されないと言わなければならない。
〔賃金-賃金請求権の発生-休職処分・自宅待機と賃金請求権〕
 債権者は、債務者から平成七年五月二六日から自宅待機を命じられ、同年六月二〇日までの間就労に就かなかったものであるが、右自宅待機命令は懲戒処分であるとはいえず単に使用者の有する指揮監督権に基づく労働力の処分の一態様であり、業務命令の一種にすぎない。したがって、債権者の都合による休職であるとまでは解することはできない。それゆえ債務者が債権者に対し、右期間内の賃金を支払わなかったことは違法である。