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ID番号 06802
事件名 停職処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 国鉄清算事業団事件
争点
事案概要  国鉄清算事業団の国労組合員が教育受講命令に従わないことを理由としてなされた停職処分を有効とした事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1996年4月22日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 10917 
昭和61年 (ワ) 12102 
裁判結果 棄却
出典 労働判例695号44頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 1 日本国有鉄道法三一条は、国鉄の職員が、同法又は国鉄の定める業務上の規程に違反した場合、又は職務上の義務に違反し、又は義務を怠った場合、総裁は、当該職員に対し、懲戒処分としての免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる(同条一項)、停職の期間は、一月以上一年以下とする(同条二項)旨を定め、国鉄就業規則(中略)一〇一条は、責務を尽くさず、よって業務に支障を生じさせた場合(同条二号)、上司の命令に服従しない場合(同条三号)、ゆえなく職場を離れ又は職務に就かない場合(同条六号)、職務上の規律を乱す行為のあった場合(同条一五号)、その他著しく不都合な行為のあった場合(同条一七号)に懲戒処分に付する旨を定めている。
 そして、懲戒権者は、同法に基づき、どのような処分を選択するかを決定するに当たっては、懲戒事由に当たると認められる所為の外部に表れた態様のほか、右所為の原因、動機、状況、結果等を考慮すべきことはもちろん、更に当該職員のその前後における態度、懲戒処分等の処分歴、社会的環境、選択する処分が他の職員及び社会に与える影響等諸般の事情をも斟酌することができるものというべきであり、これらの諸事情を総合考慮した上で、国鉄の企業秩序の維持確保という見地から考えて相当と判断した処分を選択すべきである。そして、どの処分を選択するのが相当であるかの判断は、右のようにかなり広い範囲の事情を総合した上でなされるものであり、処分選択の具体的な基準が定められていないことを考えると、右判断については、懲戒権者の裁量が認められるものと解するのが相当である。もとより、その裁量は、恣意にわたることを得ず、当該行為との対比において、甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであってはならないが、懲戒権者の処分選択が右のような限度を超えるものとして違法性を有しない限り、それは懲戒権者の裁量の範囲内にあるものとして、その効力を否定することはできないものといわなくてはならない〔中略〕。
 2(一) 〔中略〕原告らは、本件教育第一日目の昭和六一年七月一日、管理者らが、受付で所属と氏名を申告するよう求めたにもかかわらず、これを無視して、所定の手続をしないまま、オリエンテーションと開講式が予定されていた検修教室へなだれ込み、同教室において、吹田機関区の管理者である区長、助役らに対し、「なぜ転換教育が必要か。」「なぜ、我々が選ばれたのか。」など大声をあげて詰め寄った後、管理者が受講者は着席するよう指示したにもかかわらず、全員教室を出て、外の前庭に集合して、ハンドマイクを使用して、シュプレヒコールを行い、騒然たる状況にした上、管理者の再三にわたる教室へ戻るようにという指示に従わず、この間、オリエンテーションと開講式の実施を不能とした上、検修教室に戻った後も、転換教育が不当であるとか、食事代や乗車証等についての要求を記載したメモを読み上げたり、立ち上がり、区長を取り囲んで、大声で抗議するなどし、その後、区長が、混乱状況の中で、開講の宣言等をして、六時限目以降乗務員は別棟の乗務員教室で、検修員は同所で授業を行う旨指示したにもかかわらず、全員が検修教室に留まって抗議を続けるなどして、同日の第三ないし第八時限の授業の実施を不能とし、第二日目の同月二日も、管理者の指示に反して、私服を着用し、氏名札を着用しないまま、朝から全員検修教室に集合し、講師が、再三にわたり、原告ら中の乗務員に対し、所定の乗務員教室へ行くよう指示したにもかかわらず、検修教室に留まり、呼名点呼にも全く応じず、同教室において、開講式が終了していない、教育環境が悪いなどと抗議を続けて、退出しようとした講師を取り囲み、講師がようやく退出すると講師室へ押し掛け、「管理者は帰れ。」など大声でシュプレヒコールを行ったり、管理者が監視をしているなどと大声で抗議を行い、所定の教室に入って着席した後も、依然として、制服、氏名札を着用せず、各自の机上に配付した教科書の受領印を押捺せず、教科書をまとめて縛ったひもも解かずに机上に放置し、後ろを向いて授業を拒否する者がいるなど、全員が授業を受ける態度を全く示さず、授業時間中に、区長室前に押し掛け、「教室が暑い。」「道路工事の騒音がやかましい。」などと言って大声で抗議を続け、結局、正規の授業の実施を不能とし、管理者から、翌日からの授業で、制服、氏名札を着用せず、教科書の受領印を押捺しない者は授業を受ける意思がないものとみなすことを確認する旨の警告を受け、第三日目の同月三日も、右警告にかかわらず、氏名札を着用せず、全員が検修教室に集合して、講師が、乗務員は所定の教室へ行くよう指示したのに従わなかったり、授業時間中に教室を出て、講師室前に集まって、要望があると大声を張り上げ、シュプレヒコールを行い、乗務員と検修員に別れて所定の教室へ入った後も、講師が、氏名札の着用と教科書の受領印の押捺を指示したにもかかわらず、これに従わず、講師が、原告らに授業を受ける意思がないものと判断して、退室し、また、管理者がその指示に従い制服、氏名札を着用し、右受領印も押捺していた六名の受講者を別室に連れ出そうとしたことに大声で抗議するなどして、結局、授業の実施を不能とし、区長から、同月二日と同様の警告を受け、第四日目である同月四日も、右警告を無視して、氏名札を着用せず、教科書の受領印を押捺しなかった上、講師の指示に反して全員が乗務員教室に留まり、呼名点呼を不能にするなどしたことがあり、結局、講師が授業を開始できないまま各教室から退出した上、授業時間中に、講師室へ押し掛け、年休の申込みであるとして、シュプレヒコールをしたり、原告らの行為の現認のために来ていた原告ら所属区所の管理者などの上司に向かって口々に抗議をするなどして、結局、同日の授業の実施も不能としたことを認めることができる。
 これら一連の行為は、〔中略〕本件教育の開始を実質的に妨害する目的で行われたものであり、その態様も、単なる質問や平穏な抗議とは到底いえず、管理者や講師の指示に従わずに、指定された教室に入らず、授業時間中しばしば教室を離れたり、シュプレヒコールや大声による抗議を繰り返して、騒然とした状況を発生させるなど、実力で本件教育の開始を妨害したものであり、本件教育受講を命じた業務命令や管理者の業務命令に再三違反するものである上、このような態様や、その結果、本件教育の開始が約四日間遅れ、この間、本件教育に係る国鉄の業務が全く行えなかったという重大な結果を生じたことにかんがみれば、国鉄の職場秩序を著しく乱すものであり、その責任は重大であることが明らかであるので、同法及び就業規則所定の懲戒事由に該当するものというべきである。また、原告らの一部の者が、同月七日騒動に備えて待機していた管理局の管理者らを見て、講師室まで来て、「我々は、授業を受ける意思はあるが、管理者の監視の下では気が散って授業ができない。」などと約五分間にわたり抗議した行為も、本件教育受講を命じた業務命令に違反するものであり、同法及び就業規則所定の懲戒事由に該当するものというべきである。