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ID番号 06813
事件名 転勤命令無効確認控訴事件/損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 帝国臓器事件
争点
事案概要  医薬品の製造販売会社に勤務する医薬情報担当者が、東京から名古屋へ転勤命令を受け、単身赴任を余儀なくされたとして、右転勤命令の違法・無効を理由に債務不履行あるいは不法行為による損害賠償を請求した事例。
参照法条 労働基準法2章
民法709条
民法90条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1996年5月29日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ネ) 4034 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働民例集47巻3号211頁/時報1587号144頁/タイムズ924号186頁/労働判例694号29頁
審級関係 一審/06718/東京地/平 5. 9.29/昭和61年(ワ)757号
評釈論文 黒川道代・ジュリスト1112号149~151頁1997年6月1日/山川隆一・平成9年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊978〕282~283頁1998年9月/川口美貴・労働法律旬報1407号22~29頁1997年5月20日/毛塚勝利・平成8年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1113〕213~215頁1997年6月
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 勤務場所の決定に関する被控訴人の業務命令権限の有無及び本件転勤命令の適否については、原判決一〇八頁七行目の冒頭から同一二一頁四行目の末尾までのとおりであるからこれをここに引用する。〔中略〕
 Aは、本件転勤命令は、Aの単身赴任を余儀なくさせ、Bと同居して子供を監護養育することを困難にさせたので、基本的人権である「家族生活を営む権利」を侵害し、また、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」等の趣旨に反するものであるから、公序良俗に違反するなどと主張する。
 しかし、右主張は次のとおり採用できない。すなわち、〔1〕被控訴人会社は、長年にわたり、人材育成と人的組織の有効活用の観点から、医薬情報担当者等について、広域的な人事異動を実施しているところ、Aは、入社以来昭和六〇年三月まで一五年間都内地域(山梨担当の三年を含む。)の営業を担当してきており、都内を担当する職員の中で最も担当期間の長い職員の一人であったことに照らすならば、Aについてのみ、特別の事情もなく、異動の対象から除外することは、かえって公平を欠くことになるといえること、〔2〕これに対して、本件転勤命令によってAの受ける経済的・社会的・精神的不利益は、前記のとおり、社会通念上甘受すべき範囲内のものということができること、特に、〔3〕本件転勤命令における転勤先である名古屋と東京とは、新幹線を利用すれば、約二時間程で往来できる距離であって、子供の養育監護等の必要性に応じて協力をすることが全く不可能ないし著しく困難であるとはいえないこと、〔4〕被控訴人会社は、支給基準を充たしていないにもかかわらず、別居手当を支給したほか、住宅手当(赴任後一年間)を支給したことなど一応の措置を講じていることなどの事情を考慮すると、本件転勤命令により、Aが単身赴任を余儀なくされたからといって、公序良俗に違反するものということはできない。したがって、本件転勤命令が公序良俗に違反するとのAの右主張は理由がない。
 なお、Aは、労働契約及び就業規則が、Aらの「家族生活を営む権利」等を侵害することを許容する趣旨を含んでいるとするならば、労働契約及び就業規則自体が公序良俗に違反するものとして無効とすべきであると主張するが、前記のとおり本件転勤命令が公序良俗に反しているとはいえない以上、右主張は前提において採用できない。また、Aは、そのような場合に、労働契約及び就業規則の効力を限定的に解釈すべきであるとも主張するが、家族生活を優先すべきであるとする考え方が社会的に成熟しているとはいえない現状においては、右主張も採用できない。〔中略〕
 本件転勤命令には、業務上の必要性があり、Aには、これを拒む正当な理由は存しないのであり、さらに、これを違法と解すべきであるとするAの主張はいずれも理由がないから、被控訴人会社のした本件転勤命令は、業務命令権限内のものであって適法であるということができ、したがって、債務不履行には当たらず、また不法行為を構成するものでもない。