全 情 報

ID番号 06823
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 西井運送事件
争点
事案概要  長距離輸送運転手からフリードライバー対応の現場作業員に配転になった労働者が、五回にわたる業務命令拒否を理由に解雇され、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1996年7月1日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 1526 
裁判結果 棄却
出典 労働判例701号37頁/労経速報1605号21頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 原告の業務命令拒否の正当事由について検討するに、なるほど、(証拠・人証略)及び原告本人尋問の結果によると、被告会社における現場作業が相当な重労働であることは窺い知ることができる。しかしながら、(人証略)の各証言によれば、被告会社としては、フリードライバーの運送業務が必要となった場合には、翌日の業務を軽減するなど同人の業務に相当の注意を払っていることが認められるばかりでなく、むしろ、原告の業務命令拒否は、前記認定のとおり、地理不案内を理由としたり、あるいは、原告の個人的な感情等を理由になされており、しかも、(証拠略)及び原告本人尋問の結果によると、原告には自らが上司と認めない者の言うことは聞こうとしない点があると認められることに照らすと、原告において、右各業務命令を受けた際に右各命令拒否の正当理由があったとは到底認め難く、ましてこれをAやBに対して説明したとの事実は認められない。
 なお、原告は、前記平成六年三月一八日の業務命令の際には、他にフリードライバーのCがいたので、原告が右乗務をすべき必要性はなかった旨主張し、(証拠略)、原告本人尋問の結果中には、これに沿う部分がある。しかし、弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる(証拠略)によると、Cは、同月一七日から東京便に乗務し、同月一八日には、沼津からの便に乗務していたものと認められるので、原告の右主張はその前提を欠き理由がない。
 したがって、原告の右主張は、いずれも採用できない。
 (四) さらに、原告に対するA及びBの各業務命令は黙示的に取り消された旨の主張について検討するに、Aは前記業務命令を発するに際して、神戸の地図を書くから乗務するよう重ねて指示をしていると認められること、Bは四回にわたり原告に業務命令を行っていることに照らすと、右両名の各業務命令後に原告が現場作業を継続したからといって、それが右両名が積極的に許容したためであるとは到底認め難い。
 したがって、原告の右業務命令取消の主張は採用できない。
 (五) 原告は、被告会社の原告に対する中部D便の乗務命令は、原告に対する配置転換の趣旨を含むものであるところ、被告会社は、右配置転換を命ずるに当たって、事前に原告の意見を聴取していないので、右配置転換命令は違法であるので、原告は、右違法な配置転換を前提とする右乗務命令に応ずるべき理由はないと主張するが、たしかに、中部D便の乗務は、その前提として現場作業員から大型ドライバーへの復帰を前提とするものであるから、配置転換の趣旨を含むというべきところ、成立に争いのない(証拠略)(就業規則)によれば、三三条二項は、職種等の変更に当たっては、会社は、事前に従業員の意見を聞くものとするとされていることが認められるが、前記認定のとおり、原告は、大型ドライバーとして採用されたものであること、前記認定のとおり、中部D便は、被告会社において、新たに開拓した路線であることから、新たに人員の配置を要したこと、前記認定のとおり、中部D便は、昼間の乗務であって、これは、かねてよりの原告の希望に沿うものであること、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、右乗務は、給与条件も現場作業員に比し良いことが認められることにかんがみるとき、被告会社が原告に対し、配置転換を命じたのには合理的理由があり、原告において、これを拒否すべき余地はないので、この点、右配置転換に当たり、被告会社が事前に原告の意見を聴取しなかったとしても、このことから、右配置転換が直ちに違法無効なものとなるというものではないというべきである。したがって、原告には、右乗務命令を拒否しうる正当な理由はない。
 また、原告は、中部D便の乗務命令の拒否には、被告会社にあっては現場作業員の不足という事情もあるので、右乗務命令の拒否には、正当理由がある旨主張し、たしかに、(証拠・人証略)、原告本人尋問の結果によれば、被告会社の現場作業員が不足気味であったとの事実を窺うことができる。
 しかしながら、仮にそうだとしても、これをもって原告個人に対して発せられた業務命令を拒否する正当理由となるものではない。
 したがって、結局、原告の右主張は失当である。
 三 以上によれば、原告には被告主張の業務命令拒否等の事由が存在したものと認めることができ、被告会社の、原告の右行為が就業規則二四条四号に該当するとの判断は相当であるといえる。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 原告は、岡山Bコースへの路線変更を指示されて以来、被告会社の業務命令を、多数回にわたって、専ら自分個人の都合等を理由に繰り返し拒否したこと、懲罰委員会の開催を否認したのはむしろ本件組合執行委員であること、使用者が懲戒解雇の意思表示を撤回の上、同一事由により労働者を通常解雇とすることに法律上妨げはないことに照らすと、被告会社が原告を本件懲戒解雇を撤回の上、原告を被告会社就業規則二四条四項に基づき通常解雇としたことは相当であって、右解雇をもって、解雇権濫用に当たるとはいえない。