全 情 報

ID番号 06833
事件名 地位確認請求控訴事件
いわゆる事件名 九州朝日放送事件
争点
事案概要  アナウンサーから配転されたことに伴い「アナウンサーとしての業務に従事する労働契約上の地位にあることの確認」を求める訴えにつき、単に長年アナウンサーとしての業務に就いていたのみでは、職種がアナウンサーに指定されていたとはいえないとした事例。
 アナウンサーから配転されたことに伴い「アナウンサー業務を継続することを要求しうる地位にあることの確認」を求める訴えにつき、要求に応じるか否かは当事者の自由裁量にかかるものであり、不適切な訴えとして却下した事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転・出向・転籍・派遣と争訟
裁判年月日 1996年7月30日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ネ) 954 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1619号3頁
審級関係 一審/福岡地/   .  ./平成2年(ワ)2732号
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 1 主位的請求について
 (一) 控訴人は、控訴人がアナウンサーとしての業務に従事する労働契約上の地位にあることの確認を求めるものであるところ、控訴人に右のような地位があるというためには、本件労働契約においてアナウンサーとしての業務以外の職種には一切就かせないという趣旨の職種の限定が合意されることを要し、単に長年アナウンサーとしての業務に就いていたのみでは足りないと解するので、まず、争点1(職種の限定)について判断する。〔中略〕
 以上の事情を総合して考えると、アナウンサーとしての業務が特殊技能を要するからといって、直ちに、本件労働契約において、アナウンサーとしての業務以外の職種には一切就かせないという趣旨の職種限定の合意が成立したものと認めることはできず、控訴人については、本件労働契約上、被控訴人の業務運営上必要がある場合には、その必要に応じ、個別的同意なしに職種の変更を命令する権限が、被控訴人に留保されているものと解するのが相当である。
 (三) そうすると、本件労働契約が締結された当時、右契約上、控訴人がアナウンサーとしての業務に従事する地位にあったものといえないことは明らかである。さらに、控訴人は長年にわたってアナウンス業務に従事してはいたが、そうであるからといって、当然に、アナウンサーとしての業務に従事する労働契約上の地位が創設されるわけではなく、本件労働契約が職種限定の趣旨に変更されて初めて右のような地位を取得することになるものと解されるところ、控訴人については、本件労働契約の締結後に、右のような職種限定の合意が成立したことを認めるに足りる直接の証拠はないし、前認定の事実経過からいっても右合意の成立は考えられない(控訴人は、予備的請求において、第一次配転に先立ち、前記Aが控訴人に対し報道局情報センターに異動した後もアナウンス業務に従事することを保証したと主張しており、これは職種限定の合意の主張と解されないではない。しかし、前認定のAの発言自体からいっても、同人が控訴人に対しアナウンス業務に従事することを保証したとまではいえない上、アナウンス業務の激減する部署に異動させるのに、今までなかった、アナウンス業務に職種を限定する合意がなされたとするのはいかにも不自然であって、そこに職種限定の合意を認めることはできない)。したがって、その余の争点について検討を加えるまでもなく、控訴人の主位的請求は理由がない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転・出向・転籍・派遣と争訟〕
 2 予備的請求について
 控訴人は、控訴人がアナウンス業務を継続することを要求しうる労働契約上の地位にあることの確認を求めるので、まずその確認の利益の点を検討する。控訴人の右請求の趣旨が文字どおりアナウンス業務を継続することを「要求しうる労働契約上の地位」の確認にあるのであれば、右要求に応じるか否かは被控訴人の自由裁量にかかるものである以上、右の「地位」を確認してみても本件労働契約をめぐる双方当事者間の紛争を根本的に解決する手段として有効適切な方法とは認められないから、不適法な訴えとして却下を免れない。しかしながら、控訴人は、右請求において職種限定の合意がなされたとまではいえないとしても、被控訴人が控訴人に対し、さしあたりアナウンス業務に従事させることを保証する旨を約したから、控訴人にはアナウンス業務に就労することを内容とする、いわゆる就労請求権があるとして、右就労請求権の存在の確認を求めているものと解されないわけではない。そうすると、右の趣旨の限度では、控訴人がアナウンス業務に従事できるかどうかという本件紛争の解決にとって有効かつ適切な確認の請求といえないではないから、右の予備的請求にかかる訴えには一応確認の利益が認められることとなる。
 しかしながら、労働契約は、労働者が一定の労務を提供する義務を負い、使用者がこれに対して一定の賃金を支払う義務を負うことに尽きるから、労働契約等に特段の定めのあるときを除き、就労請求権は否定するほかなく、右特段の定めの主張立証もない(控訴人が主張する、配転に際しての、特定の業務に従事させる旨の約束は、右特段の定めにはあたらない)。