全 情 報

ID番号 06845
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 穂積運輸倉庫事件
争点
事案概要  運送部門から倉庫部門への配転に関連して、会社が労働者の勤務態度を問題としたことに対して、辞職願を提出した労働者らが、右辞職願は真実退職する意思ではなかった、撤回された等として、地位保全の仮処分を申請した事例。
参照法条 民法627条1項
労働基準法2章
民法93条
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願いの撤回
裁判年月日 1996年8月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成8年 (ヨ) 991 
裁判結果 却下
出典 労経速報1609号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-退職願-退職願と心裡留保〕
 労働者から辞めるとの意思表示がなされた場合、それが使用者に対する一方的な意思表示である労働契約の解約告知であるのか、使用者の承諾を得て労働契約を終了させる合意解約の申込であるのかは、それ自体で明白とは言い難い。それは、当事者の言動等により判断されることであると解するが、本件では、債権者らの言動等からして合意解約の申込と認めるのが相当であると考える。
 3 前記のとおり本件辞職願は合意解約申込の意思表示であると解し、さらに、債権者らの意思表示が心理留保に該当するとして、債務者は、債権者らの真意に出たものでないことを知っていたか、又は債権者らの真意を知ることを得べかりし状況にあって、本件辞職願を受領したかどうか検討する。
 前記二1認定の事実によれば、債務者は、債権者らに退職する意思がないことを知っていたとも、また、知りうべきであったとも認めることはできない。
 4 本件辞職願の撤回の可否について検討する。
 前記認定のとおり本件辞職願を合意解約の申込と解すると、債務者が承諾して初めて解約の効力が生ずるものであり、承諾がなされるまで、信義に反すると認められるような事情がない限り、債権者らは解約申込の意思表示を撤回できると解するのが相当であり、また、「私企業における労働者からの雇用契約の合意解約申込に対する使用者の承諾の意思表示は、就業規則等に特段の定めがない限り、辞令書の交付等一定の方式によらなければならないというものではない」ところ(最高裁第三小法廷昭和六二年九月一八日判決、労働判例五〇四号六頁参照)、本件において、前記二1認定の事実によれば、平成八年三月二一日、債務者代表者に本件辞職願が手渡され、同日、債務者所定の退職届の用紙が債権者らに手渡され、債権者らは右用紙を確認していること、債権者らは、同月二五日、債務者に対し、解約申込の意思表示の撤回をしていることが認められるから、同月二一日、債務者が、債権者らの申込を承諾したことが認められ、債権者らは、債務者の承諾後に意思表示を撤回しているので、撤回の意思表示が有効になされたものとは認められず、そうすると、債権者らと債務者間の労働契約は、平成八年四月二〇日限り終了したものと考える。