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ID番号 06875
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 生活協同組合メセタ事件
争点
事案概要  生協に勤務していた原告が、別の生協へ移籍することになったが、採用を拒否され元の生協との間で雇用関係確認を求めて争い、訴訟でそれが認められ確定した後、職場復帰したものの経営破綻により整理解雇されたため、右雇用関係確認を求めて争っていた期間におけるベースアップ等による昇給額との差額を求めた事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
労働基準法2章
民事訴訟法(平成8年改正前)199条
体系項目 賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
裁判年月日 1996年11月11日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 13052 
裁判結果 認容,一部棄却(控訴)
出典 労働判例711号72頁/労経速報1626号12頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金・退職年金と争訟〕
 前訴第一審判決(〈証拠略〉)及び同控訴審判決(〈証拠略〉)並びに弁論の全趣旨によれば、前訴における当初の請求が原告の賞与部分を除く賃金請求としては(将来請求全部を含む)全部請求であったことが判決理由の文面上から明らかである。また、右判決理由によれば、前訴控訴審判決の確定によって、原告の賞与以外の賃金額は、基本給額二四万五五〇〇円、職務手当月額四万円、家族手当月額一万五〇〇〇円によって算定される月額合計三〇万〇五〇〇円であることが既判力をもって確定されたものと判断する。
 したがって、原告が右前訴判決によって確定された賃金算定方式とは異なる賃金算定方式の事実主張に基づいて、前訴判決の確定後、新たに賃金の賃上部分との差額部分につき残部請求をすることは、判決の既判力に抵触するものとして許されない。
 ところが、本件請求において、原告は、原告の平成四年二月二一日以降の賃金につき、賃金体系に変動があったことを前提に、原告が前訴判決によって既判力をもって確定された賃金額の算定基礎とは異なる事実主張をなし、この事実主張に基づいて、その支払請求をしていることが原告の主張自体から明らかである。
 したがって、原告の本件請求のうち、右平成四年二月二一日以降の差額請求部分(賞与を除く。)は、前訴判決の既判力に抵触し、失当である。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 被告は、平成元年当時から既に経営危機に陥っており、その後も収支が改善せず、弁論の全趣旨によれば、口頭弁論終結時には完全に破産状態にあって、法人としての機能をほぼ喪失しており、法的にはともかく、社会的存在としては既に消滅していることが認められることからすると、遅くとも平成六年の段階では、被告従業員に対する整理解雇の必要性は十分にあったものと認められる。
 4 そこで、整理解雇の一環としての本件休職命令及びその後の本件整理解雇の合理性及び相当性につき判断すると、右のような経営破綻状態の下にあっては、一定数の人員整理をする必要があることが認められ、その内容及び人選についても、右状況下にあってはやむを得ないという意味での合理性及び相当性を有するといわざるを得ず、かつ、被告の極めて切迫した経営状況を前提にする限り、A労働組合の同意が得られていないことは、右休職命令の合理性等を失わせることにならず、他方、原告を含む休職命令対象者八名の具体的な人選・方法等についても特段の違法があるとは認めがたい。
 また、原告は、右休職命令等が不当労働行為に該当するから無効である旨を主張するところであるが、本件記録上の証拠によっては、右原告の主張につき立証があるということはできない。
 5 してみると、平成六年四月一日から同年七月三一日までの間の原告に対する研修休職命令は、有効であり、この間の原告の給与額等は、被告主張のとおりであるから、結局、この期間内における原告の請求は、いずれも理由がない。
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 1 一般に、労働者に対して賃金ないし給与の一部として支払われる賞与(一時金)の法的性質については、様々な見解が存在することは周知のとおりであるが、少なくとも、賞与のうち使用者の裁量による増減の余地のない部分については、純然たる賃金の一部としての法的性質を有するものであると解するのが相当である。
 そして、本件において、原告が被告の裁量による金額的増減の余地のない最低部分に属するものであると主張して本件賞与請求をしていることは、原告の主張それ自体から明らかであるから、結局、本件賞与請求にかかる訴訟物もまた、前訴における訴訟物と同一の訴訟物である賃金債権の金額的一部分(分量的一部分)に過ぎないと判断する。
 2 しかしながら、賃金債権も既発生のものについては通常の可分債権たる金銭債権の一種に過ぎず、また、ごく普通のレベルの国民感情からすると、通常の賃金(又は給与)と賞与(又は一時金)とはやや性質の異なるものであるとの認識が一般的であると考えられ、また、前訴において賞与債権の有無が争点になっていなかったことは前記判示のとおりであるから、本来は賃金の分量的一部分である賞与部分を明確に区分し、まず賞与以外の部分のみの一部請求をした後、別途賞与部分の請求をすることも処分権主義の範囲内にあるものとして許されると解すべきである。