全 情 報

ID番号 06895
事件名 配転命令無効確認請求事件
いわゆる事件名 時事通信社事件
争点
事案概要  通信社の記者で、労働組合の組合員に対する配転につき、組合の同意を要することを内容とする労使慣行は存在しないとした事例。
 通信社の記者で、労働組合の組合員に対する配転につき、不利益取扱いの不当労働行為には該当しないとした事例。
参照法条 労働組合法7条1号
民法92条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働慣行・労使慣行
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
裁判年月日 1997年1月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (ワ) 13808 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 タイムズ947号232頁
審級関係
評釈論文 古谷健二郎・平成9年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊978〕280~281頁1998年9月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働慣行〕
 2 右に認定した事実によれば、たとえ労働者委員会がA労組の下部組織であるB班所属の組合員を中心に結成された労働組合であるとしても、元来、A労組とは全く別個の労働組合であるから、A労組と被告との間で取り交わされた前記確認書に基づく本件慣行がそのまま労働者委員会に対して適用されると解することはできないし、労働者委員会と被告との間には人事異動協定は一切締結されていないというのであり、しかも、労働者委員会所属の組合員の配置転換の手続に関し、長期間にわたり、被告から労働者委員会に対して異動等の通告を行ったり、労働者委員会から被告に対して同意書を提出するなど、本件慣行に準じた行為が反復継続してなされているとはいえないのである。これらの事情からすれば、労働者委員会と被告との間に本件慣行と同様の労使慣行が成立していると認めることは到底できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 本件各配転は、春の定期異動の一環として行われたものであり、被告における取材部出先記者の異動の慣行に照らしても異例であるとはいえないし、それぞれ前任者の後任補充のため業務上の必要性が肯定できることから、合理性があると認められている。そして、労働者委員会は、昭和六一年ころから本件各配転前までは活動が低調であったというのであり、原告X1は当初、本件一の配転の内打診に対して同意し、労働者委員会としても同意書を被告に交付していたのであり、しかも、本件一の配転は、基本的に職務内容の変更がないばかりか勤務地や職制への登用といった点で原告X1にとって却って利益となるものである。他方、原告X2は、本件二の配転により整理部でのローテーション勤務となり、勤務時間帯が日によって異なり、有給休暇の取得が事実上制約を受けることになったとしても、勤務地に変更はなく、組合活動に与える影響はそれ程大きいとはいえない。また、本件二の配転後、原告X2の給与は、整理部での業務はほとんど時間外労働がないため、月額二〇万円余り減少したというのであるが、これは業務内容の変更に伴い、そのような勤務体制に組み込まれた結果であるし、反面、時間外労働を免れているわけで、一概に不利益とばかりはいい切れない。また、原告X2は、この給与の減少は、出先記者が内勤に異動する場合は、通常次長に昇格することに伴い、役付手当の支給によって補填するのに、本人の場合、次長への昇格がなかったためであるとも主張するがこれは昇格しないことによる不利益とはいえても、本件二の配転によって生じた不利益といえないことは、その主張自体から明らかである。
 なお、原告X2は、語学力及び海外取材能力を有するジャーナリストであるところ、本件二の配転により、生涯一記者としての自己実現の場を奪われ、重大な不利益を被った旨主張するが、原告X2が被告に入社した際、被告との間で原告X2の職種を生涯記者に限定する趣旨で合意されていたことを窺わせる証拠はないし、前記認定のとおり、被告においては、生涯出先記者であることの方がむしろ異例であるというべきであり、被告には、本人のこのような希望をかなえなければならない義務があるとはいえないから、原告X2の主張するような不利益は、法的保護に値する利益の侵害と評することはできない。
 そうだとすれば、本件各配転には合理的理由があると解すべきところ、これによって原告らが労働者委員会の組合活動を行う上で、また、原告X2が仕事上、人事上及び待遇上、配置転換に伴って労働者が通常甘受すべき程度を超える不利益を被ったとまでみることは困難であるから、原告らが本件各配転により労働組合法七条一号にいう不利益な取扱いを受けたということはできない。そして、他にこれを認めるに足りる証拠はない。