全 情 報

ID番号 06898
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 日本圧着端子製造事件
争点
事案概要  賞与請求権につき、給与規定に、賞与は会社の営業成績を考慮して支給するとされ、賞与の支給時期、支給対象期間も明示されているから、賞与を支給することが労働契約の内容となっているとして、他の従業員と同等の基準で算定した額の支払を命じた事例。
参照法条 労働基準法24条
労働基準法89条1項3の2号
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
裁判年月日 1997年1月24日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 8053 
裁判結果 認容,一部棄却(確定)
出典 労働判例712号26頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 1 まず、原告は、平成七年六月三〇日に原告が取締役に再任される直前頃、原告と被告会社との間で、原告の平成七年度夏期従業員賞与を三〇〇万円とする旨の合意が成立した旨主張する。
 そして、原告本人は、被告Yが、原告の賞与として、役員分を含め二〇〇〇万円近い額を会長に話す旨発言したと供述する。しかしながら、仮に右事実が存在したとしても、直ちに原告と被告会社との間で原告の平成七年度夏期従業員賞与を三〇〇万円とする旨の合意が成立したとはいえないうえに、かえって、原告本人は、従業員賞与の額があらかじめ被告会社との間で合意されていた訳ではなく、三〇〇万円という額は、原告が退職後A総務部長から聞いた内容及び従来の支給状況から算定した金額に過ぎない旨の供述もしていることを考えあわせると、原告の主張するような従業員賞与に関する合意が成立したことを認めることはできず、他に右合意の存在を認めるに足りる証拠は存在しない。
 2 次に、原告は、仮に右支払約束が認められないとしても、従業員賞与の支給額を被告会社又は代表者が恣意的に定めることは許されず、他の従業員と同等の基準で算定されるべきであるところ、平成七年度の被告会社における従業員賞与支給実績は、年間六ないし七か月分であったから、半期で最低三か月分の従業員賞与が支給されるべきであり、原告の当時の賃金月額が約一〇二万円であったことを考慮すると、原告の平成七年度の夏期の従業員賞与は少なくとも三〇〇万円を下回ることはない旨主張する。
 (一) 被告会社の給与規定(〈証拠略〉)によれば、被告会社における従業員賞与の具体的請求権は、被告会社において、その額を決定して初めて発生するものと解さざるを得ないが、被告会社の給与規定第三七条においては、賞与は会社の営業成績に応じ、従業員の勤務成績を考慮して支給するものとされ、賞与の支給時期及び支給対象期間も明記されているのであるから、被告会社においては、賞与を支給することが労働契約の内容となっていたというべきであり、賞与の額は、会社の営業成績及び当該従業員の勤務成績に応じた適正な査定に基く(ママ)金額であることを要すると解すべきである。
 (二) 右見地から検討するに、証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、原告の平成七年度夏期従業員賞与の額を三〇万円と決定したこと、原告の過去の従業員賞与の支給実績は、平成五年度が夏期四五七万一〇〇〇円、冬期四五七万八〇〇〇円、平成六年度が夏期のみで四五七万一〇〇〇円であったこと、平成七年度の一般従業員の賞与支給実績は、おおむね月額賃金の六ないし七か月分であったこと、原告の平成七年七月現在の従業員給与は六二万二四四〇円であり、役員報酬は四〇万円であったことが認められ、これらによれば、原告の平成七年度夏期従業員賞与の額は、同人の過去の支給実績及び一般従業員の同年度の支給実績に比較すると、不合理に低い金額であることは明らかであるところ、被告会社はその理由について、十分に合理的な主張立証をしていないから、右三〇万円が原告の平成七年度夏期従業員賞与として適正な金額であるとは認めがたい。
 そして、原告の平成七年度夏期従業員賞与の適正な額を算定するに当たっては、他に拠って立つべき合理的基準も見あたらない本件においては、同年度の一般従業員の支給額を基準に控えめに見積もるのが相当であるところ、平成七年七月当時の原告の従業員給与は月額六二万二四四〇円であったこと、平成七年度の一般従業員の賞与支給実績は、おおむね月額賃金の六ないし七か月分であったこと、原告が従業員として勤務したのは、平成六年一二月一二日からであるのに対し、夏期賞与の支給対象期間は一一月一日から翌年四月三〇日までであること(〈証拠略〉)、原告は平成七年度の役員賞与として五〇〇万円の支給を受けていること(〈証拠略〉)の各事情を総合すると、原告の平成七年度夏期従業員賞与の額は、原告の従業員給与の月額を三倍した額の約七割である一三〇万円が相当である。
 したがって、被告会社は、原告に対し、平成七年度夏期従業員賞与として、既払いの三〇万円を控除した一〇〇万円の支払義務を負うというべきである。