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ID番号 06929
事件名 退職金支払請求上告事件
いわゆる事件名 朝日火災海上保険(退職金請求)事件
争点
事案概要  使用者が、労使間で退職金につき昭和五四年以降の賃上げ分は暫定的に退職金の算定基礎に算入しないとの合意があったとして退職金を支払ったのに対して、それに納得しない退職労働者が、同年以降の賃上げ分も退職金の算定に含まれるとして差額の退職金を請求した事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1997年3月25日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (オ) 257 
裁判結果 棄却
出典 労働判例713号37頁
審級関係 差戻控訴審/06567/大阪高/平 7. 9.28/平成6年(ネ)339号
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 原審の適法に確定するところによれば、(1) 被上告会社は、経営の悪化に伴い、退職金の支給率を引き下げるなどの退職金制度の抜本的改定の必要に迫られ、その従業員で組織された労働組合との間で、昭和四六年一〇月一日付け退職手当規程の改定についての団体交渉を続けており、右改定についての協議が成立するまでの暫定的な措置として、昭和五四年度以降、前記留保の下で賃上げを実施してきた、(2) 上告人が被上告会社を自己都合により退職した昭和五八年三月三一日当時、右退職手当規程においては、本俸の月額に所定の支給率を乗じた額を退職金として支給する旨が定められていたが、既に、被上告会社の給与体系上本俸なるものは存在しなくなっていた、(3) それにもかかわらず、右のような団体交渉が継続中であることもあって、右退職手当規程の改定はされないままであったというのである。これらの事情に照らせば、上告人の退職当時、右退職手当規程の適用上、その抜本的改定についての労使間の協議が成立するまでの暫定的な措置として、退職金算定の基礎とすべき額は、労使間の個別の合意によって補充されることとなっていたものとみるのが合理的である。そうであれば、被上告会社は、上告人との間に成立した黙示の合意に従って、昭和五四年度以降において前記留保の下に引き上げられた賃金部分については退職金算定の基礎に算入することなく、昭和五三年度の本俸の月額を基礎として、これに右退職手当規程所定の支給率を乗じた金額を退職金として支払えば足りるものということができる。