全 情 報

ID番号 06950
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 ティーエム事件
争点
事案概要  使用者から解雇の通告を受けた労働者が、リストラ策による人件費削減としての賃金引下げ、減給等の効力を争い、また、解雇に伴う解雇予告手当を請求した事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法3章
労働基準法20条1項
労働基準法89条1項9号
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働条件の原則
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当請求権
賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 1997年5月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 8485 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労経速報1641号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働条件の原則〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 原告は、被告のA本部長の命により、右特別会議のあった平成五年二月五日ころ、営業所長として、同日付けで人件費リストラ表と題する表に、原告が当時営業所長を務めていた被告北営業所の、自己を含めた社員の氏名及びその役職ごとの賃金カット率をそれぞれ記載し、これを被告に提出した。その際、他の各営業所長も、それぞれ同様の人件費リストラ表を作成し、これを被告に提出した。なお、被告の右人件費削減の措置に不満を感じた北営業所の社員の中には、被告を退職した者もいたが、原告自身は、退職することもなく、長年にわたって賃金が削減されることに対し、被告に異議を申し入れることもなかった。
 (3) 以上の事実を総合すると、原告は、被告が経営不振の状態にあると認識のうえ、他の営業所長とともに被告のリストラ策を検討する特別会議に出席し、被告からの人件費削減の提案に対し、格別異議を唱えることもなく、これを了解し、右会議の直後には、自己を含む営業所の各社員について、賃金のカット率を記載した人件費リストラ表を作成し、これを被告に提出するなどして、これを容認していたことが認められるのであるから、原告は、被告による賃金引下げの提案を止むを得ないものとして了承し、その真意に基づいて右引下げに同意したものと認めることができる。右認定に反する原告本人尋問の結果は、(証拠略)に照らし、採用することができない。
 (三) この点、原告は、再抗弁において、右賃金引下げの合意は公序良俗に反し、無効であると主張するので検討する。
 しかしながら、賃金引下げの合意は、これを正当化する高度の合理性、必要性が認められない限り無効となるというべき根拠はない。また、本件において、その他これを公序良俗に反して無効であるというべき証拠もない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 原告本人尋問の結果によれば、被告代表者は、原告に対し、本件各減給の際、これが被告就業規則に基づく懲戒処分としてなされたものであるとも、各処分ごとに具体的に懲戒事由がいかなるものであるかも説明していないことが認められる。右認定に反する被告代表者尋問の結果は、その内容が曖昧であるうえに、当初は右減給を懲戒処分ではないと供述していたのに、後にこれが懲戒処分としてなされたものであると供述を変遷させ、一貫性を欠いているので、採用することができない。
 よって、被告による原告の減給は、懲戒処分であると認めるに足りる証拠はない。
〔解雇-解雇予告手当-解雇予告手当請求権〕
 (一) 原告は、以前自己が担当していた顧客から、新たにカラオケを設置する依頼をしたのに設置されていないとのクレームが付けられ、当時の営業担当者では手に負えなかったことから、平成七年六月一〇日及び一五日ころ、当該顧客の店舗に、一度は被告代表者とともに赴き、契約解除を避けるため交渉をしたが、結局、契約の解除を止めることはできなかった。被告代表者はこの結果に激怒し、平成七年六月一五日、原告を罵倒し、「辞めろ、明日から来るな」と電話で言い渡した。
 (二) そのため、原告は、解雇されたものと思い、平成七年六月一六日以降、被告に出社をしなかった。
 (三) 右認定の事実によれば、被告は、原告に対し、平成七年六月一五日、翌一六日付けで原告を解雇する旨の意思表示をしたものと認められる。
 もっとも、右認定に反する証拠として被告代表者尋問の結果が存するが、右は、前記クレームの処理について大筋で認めながら解雇の意思表示の点について曖昧な供述をしていること、原告が平成七年六月一六日以降に被告に出社していない理由について合理的に説明できないことから、これを採用することはできず、その他右認定を覆すに足りる証拠はない。
 2 請求原因3(二)(解雇予告手当額)について判断する。
 成立に争いのない(書証略)によれば、原告の過去三か月分の賃金の合計を右三か月(九二日)で除した額の三〇日分は、以下の計算のとおり、四四万三一六〇円であると認められる。