全 情 報

ID番号 06967
事件名 地位保全仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 北海道コカ・コーラボトリング事件
争点
事案概要  債務者会社の道東支社帯広工場に勤務していた労働者(債権者)が、札幌本社工場への転勤を命じられ、懲戒解雇をおそれて本社工場に赴任しながら、道東支社帯広工場を勤務場所とする労働契約上の地位にあることにつき仮に定める旨の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
配転・出向・転籍・派遣 / 配転・出向・転籍・派遣と争訟
裁判年月日 1997年7月23日
裁判所名 札幌地
裁判形式 決定
事件番号 平成9年 (ヨ) 219 
裁判結果 認容
出典 労働判例723号62頁
審級関係
評釈論文 新谷眞人・労働法律旬報1439・1440号96~102頁1998年9月25日/森井利和・労働判例730号6~13頁1998年3月15日
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 使用者は、業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転居を伴う転勤は労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えることからすれば、使用者の転勤命令は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されない。しかし、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである(最高裁判所昭和六一年七月一四日判決・判例時報一一九八号一四九頁参照)。
 (2) これを本件についてみると、本件転勤命令は、債務者旭川工場の本社工場への統廃合に伴い、人員配置を行う必要が生じたことから出されたものであり、業務上の必要性があると認められる。また、人選についても、前記認定のような基準に基づいてされたことからすれば、人選の基準において特に不合理な点があるとは認められない。
 しかし、債務者は、前記のとおり、帯広工場の従業員一七名につき、作業経験、能力、年齢、協調性等を考慮して債権者ら四名を選考して異動させることとしたが、右一七名のうち五名については他の要件は満たすものの協調性に欠けるとして異動候補者から外しているところ、右のように約三〇パーセントもの者が協調性に欠け異動不適格者であるというのは不自然であるから、右要件は異動対象者を選考するについての付随的要件であると推認される。
 前記認定のとおり、債権者は、妻、長女、長男(ママ)、二女と同居しているところ、長女については、躁うつ病(疑い)により同一病院で経過観察することが望ましい状態にあり、二女については脳炎の後遺症によって精神運動発達遅延の状況にあり、定期的にフォローすることが必要な状態であるうえ、隣接地に居住する両親の体調がいずれも不良であって稼業の農業を十分に営むことができないため、債権者が実質上面倒をみている状態にあることからすると、債権者が一家で札幌市に転居することは困難であり、また、債権者が単身赴任することは、債権者の妻が、長女や二女のみならず債権者の両親の面倒までを一人で見なければならなくなることを意味し、債権者の妻に過重な負担を課すことになり、単身赴任のため、種々の方策がとられているとはいえ、これまた困難であると認められる。そして、債権者が右のような家庭状況から、札幌への異動が困難であることに加えて、帯広工場には、協調性という付随的要件に欠けるが、その他の要件を満たす者が他に五名もいることを考慮すると、これらの者の中から転勤候補者を選考し、債権者の転勤を避けることも十分可能であったと認められるから、債務者は、異動対象者の人選を誤ったといわざるをえず、債権者を札幌へ異動させることは、債権者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるというべきである。なお、債権者は、右のような家庭状況を、転勤の内示を受けるまで債務者に申告せず、却って、長女、二女及び両親に何らの問題もないかのごとき家族状況届を提出し、債務者をして転勤の人選を誤らせており、その対応には遺憾な点が存するが、結局、本件転勤命令が出される一か月以上前には債務者に対し家庭状況を申告し、転勤には応じ難い旨伝えていることを考慮すると、債権者の右対応によって右認定が左右されるものではない。
 以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、被保全権利が存在すると一応認められる。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転・出向・転籍・派遣と争訟〕
 本件の経過及び債権者の態度等からして、債権者が本件転勤命令を拒否した場合には、債務者から懲戒解雇などの不利益処分を受ける恐れがあることは明らかであり、また、前記1のとおり、債権者が札幌で勤務する場合にはその家族状況からして著しい不利益を受けることを考慮すると、保全の必要性があると認められる。