全 情 報

ID番号 06969
事件名 給料請求事件
いわゆる事件名 日本アイティーアイ事件
争点
事案概要  労働基準法四一条二号にいう管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者と解すべきであるとし、本件営業部主任はこれに該当しないとした事例。
 営業部主任らの割増賃金の請求につき役職手当、営業手当又は業務手当の額が割増賃金分を上回る場合は、労働者は割増賃金の支払を請求できないが、下回る場合は割増賃金を請求できるとし、本件においては上回るとはいえないとした事例。
 会社の営業の中止は組合を潰すために行われたと断定することは困難であり、労働者らによる、不法行為に基づく損害賠償請求を棄却した事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法37条
労働基準法41条2号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の承継 / その他
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定方法
労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 管理監督者
裁判年月日 1997年7月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 23661 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例724号30頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕
 労働基準法(以下「労基法」という。)四一条二号に定める「監督若しくは管理の地位にある者」とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者と解すべきところ、原告らは営業部の従業員を統括する立場にあったとはいえ、同号所定の管理監督者に該当するとは到底認められないから、営業職及び課長以上の管理職は時間外・休日勤務手当の支給対象外とする旨の被告会社の前記給与規定の定めは、労基法三七条に反して無効であり、これを根拠に時間外・休日勤務手当の支給を拒むことはできないといわざるを得ない。
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定方法〕
 原告らに対して、旧会社においては、それぞれ裏給与として月額一〇万円を超える金額が支給され、被告会社においては、役職手当、営業手当又は業務手当として相当の金額が支給されていることは前記認定のとおりであるところ、これらが営業職であり、管理職である原告らに時間外・休日勤務手当を支給しないことの代償措置の一面を有することが認められ、労基法三七条は、毎月支給する給与の中に割増賃金に代えて一定額の手当を含めて支払うことまでを禁止する趣旨ではないと解せられることからすれば、原告らが行った超過勤務、休日勤務等について、各月の基本給を基に労基法及び被告会社の就業規則に従って計算した割増料金の額が、右役職手当等の額を超える場合はその超過する金額を請求することはできるけれども、超えない場合は改めて割増賃金の請求をすることはできないものというべきである。
 なお、原告らは、旧会社及び被告会社を通じて、原告らに支給される給与の項目は、支給総額に変化がなければ、会社の都合で勝手に手当を新設したり変更したりしていたもので、原告らは承諾していない旨主張するが、相当の期間継続して同種の手当が支給されており、これに対して原告らから異議を唱えたような形跡が窺われないことからすれば、原告らは少なくとも事後的にはこれらの項目で給与が支給されることを承諾していたものというべく、かかる事情は右の判断を左右しない。
 3 次いで、請求原因5項(超過勤務等)の主張について検討するに、(証拠・人証略)の結果によれば、原告らは、常に他の従業員よりも遅くまで残業しており、退社するのは一番最後であったとして、他の従業員で最も遅くに退社した時刻を基に残業時間を推計した結果が別紙のとおりであるという。しかし、原告らが常に他の従業員よりも遅くまで残業していたという前提事実について、これを裏付ける的確な証拠はなく、原告ら各本人の供述は俄に信用しがたい。そうすると、原告らが所定の勤務時間外や休日にある程度勤務していたことは認められるにしても、その正確な日や時間を特定するに由なく、結局、先に判示した役職手当等の額を超える割増賃金の根拠となる時間外及び休日勤務の存在を認めるに足る証拠がない。
 4 よって、原告らの主位的請求は、その余の主張について判断するまでもなく、理由がない。
〔労働契約-労働契約の承継-その他〕
 二 予備的請求について
 請求原因1項のうち、被告Yが平成六年三月一日にAに代わって被告会社の代表者に就任したこと、同2項(組合の結成)の事実、同3項のうち、被告会社が同年七月一五日をもって営業をやめたことは、当事者間に争いがない。そして、(証拠略)並びに原告ら各本人及び被告会社代表者兼被告Y本人の各尋問の結果によれば、被告会社の代表者が被告遠藤に交代して以降、被告Yは、債務超過に陥っている被告会社の経営を健全化するため、従前原告らに支給されていた歩合給の制度をやめると言いだし、これに反対し、少なくとも過去の労働分については支払うよう要求する原告らと確執が生じたこと、原告らは同年四月から五月にかけて約一か月間の有給休暇を取得したこと、その後、被告会社は原告らが販売を担当する取扱い商品の変更を命じたこと、被告会社は原告らに対し、過去の歩合給の一部を支払ったものの、残額の支払いを拒否し、組合からの団体交渉の申し入れも、これを拒否したり、交渉には応じても歩合給の支払を拒絶する態度を変えなかったこと、こうした中で、被告Yは原告らに対し、同年六月一五日ころ、突然、会社を清算し、社員を解雇する旨通告したこと、以上の事実が認められる。
 右に認定した事実によれば、原告らや組合から歩合給の支払を再三要求されたことが一つの有力な原因になったということは否定できないとしても、このことから直ちに、被告会社の営業の中止が組合を潰すために行われたと断定することは困難であり、被告会社は当時債務超過に陥っていたものであり、本来、営業を継続するか断念するかの決定は、その時々の経営者の高度に専門的な判断に委ねられていることからすれば、被告会社の営業の中止をもって不法行為を構成するとまでいうことはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
 そうすると、原告らの予備的請求もまた理由がない。