全 情 報

ID番号 07000
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 静岡理工科大学事件
争点
事案概要  原告は、被告大学の理工学部基礎教育室教授として英会話の授業を担当していたが、雇用契約書は、雇用期間を平成五年四月一日から同年八月三一日までのもの、平成五年九月一日から平成七年三月三一日までのもの、平成七年四月一日から平成八年三月三一日までを定めた三通が存在していたところ、被告大学が、それ以降の更新をしないと意思表示したことに対し、原告は、被告が六八歳まで雇用する旨の約束をしたと主張し、地位確認と賃金の支払いを請求したケースにつき、被告大学が六八歳まで雇用するという意思表示はしたものではないとした。結局、雇止めの意思表示は有効とされた事例。
参照法条 民法1条3項
労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1997年4月16日
裁判所名 静岡地浜松支
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 170 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1635号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 1 成立に争いのない(書証略)及び弁論の全趣旨によれば、原告の雇用については、被告・原告間において、原告自身の署名のある次の三通の契約書が作成されていることが認められる。すなわち、(1) 雇用期間を平成五年四月一日から同年八月三一日までとする同年四月一日付けのもの、(2) 雇用期間を平成五年九月一日から平成七年三月三一日までとする平成五年七月五日付けのもの、(3) 雇用期間を平成七年四月一日から平成八年三月三一日までとする平成七年二月一四日付けのもの、である。そして、他に原告の雇用に関する契約書は存在しないことが明らかである。
 右事実によれば、特段の事情の存しない限り、被告と原告との雇用関係については、雇用期間が全く紛れようもない形で定められており、もとより原告においてもそれを承諾して雇用契約を結んだものと認めるのが相当である。〔中略〕
 (三) 以上のとおりであって、(一)掲記の原告主張のよってたつ事実関係については、(二)掲記のような、いわばことごとにその存在を否定する供述等があることになるところ、それらを直ちに殊更に虚偽を述べたものとして排斥しなければならないほどの事情を窺うこともできない。加えて、(一)における原告ら(特に、原告自身)の認識・理解は、全体としていかにも漠としており、具体性に欠ける観のあることを否めない。例えば、「被告大学の採用条件は、六八歳定年までの終身雇用制ということだった」というが、いつ、何に基づいてそのように認識したというのであろうか。募集要項中の契約期間を云々するが、原告は、そもそもそれを見ていないというのであるから、何らの論拠とはならないし、候補者選考委員会の面接において、「終身雇用だといわれた。その場にいるすべての人たちにその質問をした。A教授から、終身雇用である旨を聞いた。職がパーマネントであることを確認した」、「四月五日、B理事は原告の職がパーマネント・ジョブである旨を告げた」というのであるが、(書証略)によれば、原告が被告と最初に交わした契約の契約書には、更新に関する条項すら入っていないことが明らかである。仮に、原告が、真実、終身雇用の約束があったからこそ被告との雇用契約に応じたというのであれば、更新についての定めもない、右の約束が果たされるかどうか全く不明の内容の契約書の作成に応じるというのは、奇異なことといわなければならない。Cの話とか、「本部へ行った際、原告の退職年齢が六八歳であるとのさらなる確約を貰った」というのも、それ自体、不確かで曖昧な出来事と評さなければならない。
 このように考えると、(一)の事実関係は、これをそのまま採用するには躊躇を覚えざるを得ないとともに、仮に、それに近いような事実経過があったとしても、それをもって、1掲記の各契約書における雇用期間の定めを打ち破るに足るほどの「特段の事情」とまで認めるのは無理といわなければならない。
 3 そうすると、被告と原告との雇用関係は、1の(3)の契約で定められた雇用期間の終期である平成八年三月三一日の経過をもって終了していることになる。抗弁は理由がある。
 三 再抗弁について判断する。
 原告主張の終身雇用約束を認めることはできないから、本件雇い止めをもって解雇ということはできない。したがって、権利の濫用の主張はその前提において採用の限りでない。
 なお、(書証略)によれば、本件雇い止めに係る前記二1(3)の契約は、「契約期間満了の取扱い」について、「この契約の期間満了後において、学園が教授と改めて契約を締結するか否かについては、一九九五年六月三〇日までに学園が教授に通知する。なお、その際には、学園は教授に対し、その理由等を説明する機会をもつものとする」と定め、「契約の解消」について、「学園が前項に基づく再契約の掲示をしないときは、その契約は、期間の満了日をもって終了する」と定めていることが認められるところ、本件雇い止めの意思表示が右の通知の時期に関する要件を具備するものであることは請求原因についての判断のとおりであり、また、理由の説明の点についても、(証拠略)によれば、被告はこれを履践していることが認められる。
 四 以上の次第であるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。