全 情 報

ID番号 07034
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 新光ランド事件
争点
事案概要  原告の退職届の提出前に、被告会社が懲戒解雇の手続をとったことは認められないとして、退職金の支払を拒むことはできないとされた事例。
 退職金の支払額につき、退職金規定の「本給」を基礎にして計算すべきとされた事例。
 職務手当について、会社が一方的に不支給を決められないとして、その支払が命ぜられた事例。
参照法条 労働基準法24条1項
労働基準法89条1項3の2号
労働基準法89条1項9号
民法414条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 1997年10月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 11186 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1674号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 一 争点1について(原告瀧口が退職金請求権を有するか)
 被告は、原告X1の退職金請求について、懲戒解雇事由が存し、被告において原告X1の懲戒解雇手続をとっていないが少なくとも内部的には懲戒解雇であるので退職金を請求できないと主張するので判断する。被告の従業員に適用される退職慰労金規程(第二条)には被告が懲戒解雇した従業員には退職金を支給しないことが規定されているのみで、これ以外の退職金不支給事由を規定していないところ(書証略)、原告X1は、平成八年二月一五日ころ、同年三月一五日を希望退職日とする退職届を被告に提出しており、遅くとも同年三月一五日までには、原告X1と被告との間の雇用契約は終了したものと認められ(書証略、弁論の全趣旨)、被告においてこの間に、原告X1に対して内部的にではあれ、具体的な懲戒解雇事由を示したうえで、退職届を受理しないこと及び懲戒解雇とすることを明確に通告し、原告もそのような手続がとられたことを了知していたと認めるに足りる証拠はなく、結局、被告において、就業規則上の懲戒解雇の手続をとったと認めるに足りる証拠はないから、被告の主張1記載の事実が存することを理由に退職金の支払いを拒むことはできないというべきである。また、被告は、平成九年一月二七日に、平成八年三月一五日付けに遡って懲戒解雇をした旨の主張をするところ、雇用契約終了後における右意思表示は効力を生じないというべきであるから、この点に関する被告の主張も理由がない。
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 二 争点2について(退職金計算の基本となる金額が基準賃金か基本給か)
 1 退職金計算の基本となる金額について、原告らは給与規定で定める基準賃金(基本給、職務手当、役付手当及び家族手当の合計)であると主張し、被告は給与規定で定める基本給であると主張するので判断する。被告及びA会社における退職慰労金規程の適用は原告X2が最初であるうえ、右規程制定当時の事情を知る者も存しないので(書証略)、退職慰労金規程の文言自体を検討するに、本文において「本給」に別表の支給率を乗じた額を支給する旨を定め、別表には「(退職時の基準賃金)×勤続年数」との記載があるのであるから(争いのない事実6)、右規程の体裁上、本文において退職金計算の基本となる金額を定め、別表においては単に支給率を定めているに過ぎないものと解される。そして、本文で定める「本給」は、給与規定第八条が本給額との表題の下に基本給について定めているから(争いのない事実7)、基本給を指すものと解され、別表の「基準賃金」という記載とは矛盾するが、前述のとおり別表は本文による説明の範囲内の支給率を定める限りにおいて効力のあるものと認められる。ところで原告らは、給与体系を基準賃金と基準外賃金に区分した給与規定の制定された昭和四五年一月五日に、退職慰労金規程の別表が改訂されて、「基準賃金」を退職金計算の基礎とすることになったと主張するところ、給与規定によって初めて基準賃金と基準外賃金との区別が行われるようになったものであるのか、それまで慣行等として行われてきたものを規定化したのかも明らかではないうえ、右時期の退職金規程の改訂が従来別表に「本給」との定めがあったものが「基準賃金」と改訂されたものであると認めるに足りる証拠もない(支給率を改訂したものとも充分に考えられる)ことに加え、本文自体は退職金計算の基礎額を「本給」としている点をもあわせて考えると、この点に関する原告らの主張は理由がない。〔中略〕
〔賃金-賃金の支払い原則-全額払〕
 三 被告は、原告X1の平成八年二月分の職務手当一六万五〇〇〇円については、Bの横領行為を未然に防止することが出来ず、役職としての責任を果たしていなかったことからカットしたものであると主張する。しかしながら、給与規定において職務手当の支給について規定し、原告X1の職務手当額を平成八年二月に入る段階では一六万五〇〇〇円と定めており、職務手当の削減についての給与規定の定めもないこと(書証略、弁論の全趣旨)を考慮すれば、平成八年二月分の賃金支給時に、被告の主張1記載の事実が存することを理由に被告が一方的にこれを削減することはできないものと認められ、この点に関する被告の主張は理由がない。したがって、原告X1の平成八年二月分の職務手当一六万五〇〇〇円の請求については理由がある。