全 情 報

ID番号 07079
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 三庵堂事件
争点
事案概要  食品の製造販売を業とする会社に正社員として勤務する労働者が、工場長に口頭で有給休暇を申し出て取得したところ、有給休暇取得届けは会社代表者にしなければならないとして無断欠勤とみなされ賃金がカットされ、また、当該労働者に対してだけ合理的な理由なく賞与を支給しないため、カット分の賃金、右賞与及び慰謝料を請求して一部認容された事例(使用者が正当な理由なく健保関係の届けをしないため、本来会社が負担すべき保険料まで負担せざるを得なかったとして事業主負担分の保険料の返還も請求して認容されている)。
参照法条 労働基準法39条
民法709条
労働基準法3章
体系項目 年休(民事) / 時季指定権 / 指定の方法
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
裁判年月日 1998年2月9日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 3208 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例733号67頁
審級関係
評釈論文 小西國友・ジュリスト1148号352~355頁1999年1月1日
判決理由 〔年休-時季指定権-指定の方法〕
 原告が平成九年一月八日、被告工場長に対し、口頭で同月九日を有給休暇の時季として指定する旨の意思表示をしたことが認められる(なお、原告は、同月一〇日、右と同趣旨の内容を記載した書面を被告に提出した。)から、被告において適法に時季変更権を行使しない限り、右指定日は有給休暇として取り扱われるべきものであるところ、本件全証拠によるも被告において適法に時季変更権を行使したとの主張立証はなく、また、被告が原告の同月分の給与から一万一一一〇円を支払わなかったことについては当事者間に争いがないので、結局、請求原因2(一)(2)が認められる。
 もっとも、この点につき、被告は、平成八年一〇月以降、被告においては年次有給休暇取得の届出を被告工場長ではなく被告代表者あてに提出しなければならないところ、原告が右手続を経ていなかったため、これを無断欠勤とみて賃金カットした旨主張し、被告代表者の尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。
 しかしながら、証拠(〈人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、平成八年一〇月以前において被告従業員が有給休暇取得の届出をする場合には、口頭で工場長に対し有給休暇を取得する旨の申出をすれば足りるとの取扱いがされていたことが認められ、この点、右取扱いが原告つき変更されたと認めるに足りる証拠は存しない。〔中略〕
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 以上の認定事実によれば、被告において、賞与は、従前から概ね一か月分程度を上限として、被告代表者の査定により支給されていたこと、そのため、被告代表者による査定の結果、原告と同様に工場内で作業に従事していた他の正社員二人の賞与額は、各人の業務遂行の程度等を勘案して三二万円と一五万円と決定されたことが認められる。
 右事実によれば、本件において、原告が被告に対し、平成八年度年末賞与として当然に一か月分の賃金(三〇万円)相当の金員を請求しうべき権利があるとまではいえないが、他方、原告が被告に対し、平成八年度年末賞与を請求する権利がないとまでは直ちにいえないというべきであるところ、前記認定事実及び証拠(〈証拠・人証略〉)並びに弁論の全趣旨によれば、原告と同様に仕分けや配送作業に従事する前記Aについては被告代表者の査定上さほど高い評価がされていないにもかかわらず一五万円が支給されていること、他方、証拠(〈人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、原告の仕事ぶりは作業能率や仕分作業中の過誤等の点で問題がなかったわけではなく、その限度で被告代表者の査定権限を尊重すべきことなどを総合考慮すれば、右Aとほぼ同等の作業に従事する原告に対しては、右Aと同等の一五万円が支給されてしかるべきものといえる。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 以上の認定事実によれば、被告は、解雇撤回後も、原告の勤務態度等に対する不満から積極的に原告を敵視し、その一環として、正当な理由なく、原告に対する各種保険の届出をせず、また、ひとり原告に対してのみ厳格に対処して原告の有給休暇取得に係る賃金分をカットし、さらには、合理的な理由なく平成八年度年末賞与の支給をしなかったなどの嫌がらせ行為を繰り返したということができる。
 被告の右行為は、その行為の内容、態様等にかんがみるとき、違法なものであるというべきところ、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告の右違法行為により相当の精神的苦痛を受けたことが認められる(なお、原告は、本訴において別途請求に係る部分が一部認容されることにより、財産的な損害を回復することになるが、それだけでは原告の受けた精神的苦痛を償うことはできない。)ので、被告がした右一連の行為は、いずれも原告に対する不法行為に該当するというべきであり、被告は右不法行為によって原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。