全 情 報

ID番号 07086
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 東京海上火災保険・海上ビル診療所事件
争点
事案概要  保険会社に勤務した労働者が、同社の委嘱を受けて社員の定期健康診断を行っている診療所での社内検診を受けた際に、胸部レントゲン写真の読影にあたった医師らが異常陰影を見落とし、診療措置を怠ったため肺がんで死亡したとして遺族が保険会社、診療所及び医師を相手として損害賠償を請求したケースの控訴審の事例(原審と同様、請求棄却)。
参照法条 民法415条
労働安全衛生法66条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1998年2月26日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ネ) 5529 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働判例732号14頁/労経速報1660号16頁
審級関係 一審/東京地/平 7. 1.30/平成2年(ワ)10439号
評釈論文 松尾政太・季刊労働法189号97~103頁1999年7月/増永謙一郎・平成12年度主要民事判例解説〔判例タイムズ1065〕102~103頁2001年9月/米津孝司・民商法雑誌122巻1号128~137頁2000年4月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 債務不履行又は不法行為をもって問われる医師の注意義務の基準となるべきものは、当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であって、定期健康診断におけるレントゲン読影医の注意義務の水準としては、これを行う一般臨床医の医療水準をもって判断せざるをえないというべきであり、このことは、被控訴人Yがレントゲン写真の読影につき豊富な経験を有していたとしても異ならない。〔中略〕
 定期健康診断は、一定の病気の発見を目的とする検診や何らかの疾患があると推認される患者について具体的な疾病を発見するために行われる精密検査とは異なり、企業等に所属する多数の者を対象にして異常の有無を確認するために実施されるものであり、したがって、そこにおいて撮影された大量のレントゲン写真を短時間に読影するものであることを考慮すれば、その中から異常の有無を識別するために医師に課せられる注意義務の程度にはおのずと限界があるというべきである。
 したがって、被控訴人Yが本件レントゲン写真につき「異常なし」と診断したことに、過失を認めることはできない。