全 情 報

ID番号 07089
事件名 労災就学援護費不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 中央労働基準監督署長事件
争点
事案概要  フィリピン共和国の国籍を有していた夫が業務災害により死亡し労働者災害補償保険法に基づき遺族補償等を受給する権利を得た妻が、当時その次女が東京都立高校在学中及び都立高等専門学校に入学後支給を受けていた労災就学援護費に関して、当該次女がフィリピン共和国の大学に入学予定であるとして労災就学援護費の支給継続を請求したところ、右大学は教育基本法一条に定める学校等でないとして拒否され、その不支給決定通知を争った事例(申立却下)。
参照法条 行政事件訴訟法3条2項
労働者災害補償保険法23条1項2号
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / リハビリ、特別支給金等
裁判年月日 1998年3月4日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (行ウ) 256 
裁判結果 却下(控訴)
出典 時報1649号166頁/労働判例737号41頁
審級関係
評釈論文 下井康史・社会保障判例百選<第3版>〔別冊ジュリスト153〕124~125頁2000年3月/堀勝洋・季刊社会保障研究35巻1号96~110頁1999年6月
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-リハビリ、特別支給金等〕
 労災法二三条一項二号は、それ自体では、労働福祉事業として、被災労働者の遺族の就学の援護を図るために必要な事業を行うことができると定めているにとどまるが、事業の内容として就学援護金を支給することを想定しており、これを実施するために、同条二項により労働省令に当該事業の実施に関して必要な基準を定めることを委任しているものであって、同条二項は、その趣旨及び文言に照らして考えると、労働省令に労災就学援護金の支給のために必要な実体上の要件及び金額等の内容並びに事務処理上の実施の細則を定めることを委任しており、かつ、委任の限度は右にとどまるものと解するのが相当である。したがって、労働省令において、労災就学援護金の支給の実体上の要件及び金額等の内容を具体的に定めて要件に該当する者に支給を受ける請求権を付与することとすることは委任の範囲内であるし、あるいは贈与契約として支給を行うこととし、その支給の要件及び内容の骨子だけを定め、詳細は通達によって定めることとすることも委任の範囲内であるが、行政庁が公定力を有する処分により支給に関する決定を行うこととしてその手続を定めることは労災法二三条二項の委任の範囲を超えるものと解するのが相当である。
 労災法施行規則は、一条三項において事務の所轄を定め、同規則四三条において労働福祉事業等に要する費用に充てるべき額の限度を定めるが、労災就学援護費の支給の実体上の要件及び金額等の内容並びに事務処理上の実施の細則については何ら定めていないから、支給を受ける請求権を付与することとしているものではなく、贈与契約として労災就学援護費の支給を行うこととすることが相当であるとの政策を採ったものであり、国家公務員、地方公務員について類似する制度があるため、国家公務員災害補償法、人事院規則等の関連する規定を参酌すれば足りるとの立場から、労災法施行規則において支給の実体上の要件及び金額等の内容について何も定めなかったものと解するのが相当である。なお、労災法施行規則は、前記のとおり、労災法によって行政処分により支給を行うこととすることの委任を受けておらず、またそのような規定も何ら置いていない。
 本件通達及び本件要綱は労災就学援護費の支給内容及び手続等を具体的に定めているが、その意義は右のとおりに解するのが相当であり、本件通達及び本件要綱を根拠に、本件決定に行政処分性を肯定することはできない。〔中略〕
 本件決定は、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえず、行政事件訴訟法三条二項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」には当たらないから、その取消しを求める原告の本件訴えは不適法というべきである。