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ID番号 07107
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 熊谷建設ほか事件
争点
事案概要  工場現場で作業中に、下請業者の従業員が運転するミニユンボのカウンターウエイト部分が作業員の右手小指付近に当たり負傷したケースで、元請会社・下請会社が、それぞれ損害賠償責任を問われた事例(一部認容)。
参照法条 民法715条
労働者災害補償保険法12条の4
労働基準法84条2項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1998年3月26日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 1323 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例741号57頁
審級関係
評釈論文 高橋眞・私法判例リマークス〔21〕<2000〔下〕>〔法律時報別冊〕70~73頁2000年7月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 Aは、車両系建設機械の運転者として、ミニユンボを操作するについては、ミニユンボの近くで共同作業を行っている原告の動静に十分注意し、その安全を確認して、原告に接触させないように旋回等を行う注意義務があったというべきであるところ、前記認定のとおり、原告の一輪車に正土を積んだ後、次の作業に移るためバケットを正面位置に戻すべく、原告の動静に十分に注意を払わず、漫然とミニユンボを操作して、これを正面位置より右に旋回させ過ぎたため、カウンターウェイト部分をミニユンボの本体から横にはみ出させて、原告の右手小指付近に接触させたものであるから、Aには、ミニユンボを旋回させるにつき過失があるといわざるを得ない。
 従って、被告Y1会社は、Aを雇用し、Aがその業務を執行中右のような不法行為によって本件事故を発生させたものであるから、民法七一五条一項に基づき本件事故により原告が被った損害を賠償すべき責任がある。〔中略〕
 請負人は、その判断と責任において仕事を遂行するのが原則であり、元請人と下請人ないし孫請人の被用者との間に、使用関係はないのが通常であるが、元請人が、下請人等の被用者を直接間接に指揮監督して工事を施工させているような場合には、元請人と右被用者との間に実質的な使用関係があるものとして、右被用者の不法行為について、元請人は使用者責任を免れないと解するのが相当であるところ、右認定のとおり、被告Y2会社は、現場事務所を設置してその従業員であるBを本件工事現場に派遣して、常駐させ、下請業者の従業員等を全般にわたって、直接間接に指揮監督して、作業に従事させていたのであるから、孫請人の従業員であるAとの間には実質的な使用関係にあったものというべきである。
 従って、被告Y2建設は、被用者であるBあるいは実質上使用関係にあるAが業務の執行中右のような不法行為によって本件事故を発生させたものであるから、民法七一五条一項に基づき本件事故により原告が被った損害を賠償すべき責任がある。〔中略〕
 右認定の諸事情に照らすと、原告は正土を一輪車に積載した後ミニユンボの脇を通行するにあたり、間隔をとって通行せず、ミニユンボに近寄り過ぎたものと推測されるのである。従って、工事中の本件事故現場の地面の整地が十分でなく、また、正土を積載した一輪車の重量のためにある程度一輪車が左右に蛇行することはあり得ること(人証略)を考慮しても、原告の身体がミニユンボに接触するについては、原告においても、不用意に旋回中のミニユンボに接近し過ぎた過失があるものといわざるを得ない。
 右の原告の過失を斟酌すると、その損害額から三割減ずるのが相当である。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 労災保険上の療養補償給付はこれに対応する積極損害(治療費、入院費等)に、休業補償給付及び障害補償給付はこれに対応する消極損害(逸失利益)にそれぞれ填補されるが、同性質を有せず、相互補完関係にない他の損害を填補するものとして取り扱うべきではなく、また、本件の場合特別支給金も本来的保険給付と同様に損害の填補の性質を有するものと解するのが相当である。
 従って、右観点から損害の填補関係をみると、原告の求め得べき損害残額は、一〇一万九五七一円となる。