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ID番号 07125
事件名 賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 JR西日本事件
争点
事案概要  JR西日本の職員が、労働組合員であることを示す組合バッジを着用して就労していたことにつき、期末手当の支給に際して成績率を五パーセント減額査定されたことを不当として減額分の請求をした事例の控訴審(一審原告のうち八名につき認容・その他の一五名につき棄却)。
参照法条 民法623条
民法709条
労働組合法7条
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / リボン・ハチマキ等着用と賃金請求権
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 債務の本旨に従った労務の提供
裁判年月日 1998年4月30日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ネ) 392 
平成5年 (ネ) 476 
裁判結果 一部棄却、破棄自判(上告)
出典 タイムズ977号124頁/労働判例749号71頁
審級関係 一審/広島地/平 5.10.22/昭和62年(ワ)1399号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
 一般に労働者は、労働契約を締結することにより、所定の勤務時間中は使用者の指揮命令に服して稼働すべき職務専念義務を負うから、同条はこの趣旨を規定したものというべきであるところ、職務に専念するということは、労務提供を誠実に履行することを意味しており、労務提供を誠実に行うに必要な限度でその身体的活動あるいは精神的活動を集中することが求められているのであるが、他方、勤務時間中全ての身体的、精神的活動を勤務のみに集中し、職務以外のことに一切注意を向けてはならないというような、全人格的な従属関係まで求められていると解することはできないことはいうまでもない。
 しかしながら、本件組合バッジは一審被告のみならず、その社員である他組合員もその存在を周知していたこと、及び一審原告中本件組合バッジを着用した者が自己の所属する組合の組織維持を期して着用したことは弁論の全趣旨により認められるところであり、そのような職場において右の意図をもって本件組合バッジを着用することは職場内に組合意識を持込み当該組合の存在を主張する結果をもたらすことは明らかであるばかりでなく、他組合員を刺激し職場に無用の混乱を惹起することを一審被告において危惧することは使用者として当然の配慮であるといわざるをえない。このような中で本件組合バッジを着用することは右の職務専念義務違反とならない例外に該当する場合とはいえない。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-リボン・ハチマキ等着用と賃金請求権〕
 一審被告が従来の国鉄時代の反省に立って新会社の運営をするにつき、職場規律を重点項目としたこと自体は当然のこととして是認できることであるが、組合バッジの着用は、国鉄改革の論議の中で具体的には取り上げられず、かつ国鉄時代には問題にされなかった項目であり、かつその規制は団結権の制限に関わる事項であるから、これを理由に本件減率査定事由とすることは慎重でなければならない。それゆえ、組合バッジ着用行為を本件減率査定事由としたことから直ちにそのことが不当労働行為に該当するとはいえないが、それは他の事情との衡量のなかで相対的に考慮されなければならないものと解すべきである。