全 情 報

ID番号 07141
事件名 債務不存在確認請求事件
いわゆる事件名 ユニ・フレックス事件
争点
事案概要  本件において合意解約成立の間接事実は存在しないとされた事例。
 使用者により就労拒否がなされた場合、賃金請求権が発生するためには労働者が客観的に就労の意思と能力を有していることが必要であり、本件においては労働者が就労の意思を喪失しており、賃金請求権は発生しないとされた事例。
 割増賃金の算定基礎につき、時間外手当の固定給として支払われている営業手当は算入されないとされた事例。
 時間外手当について、固定給の意味をもつ営業手当に含めて支給することとしたケースにつき、就業規則の変更がなされていないとして許されないとされた事例。
 年休取得の主張につき、事前に請求をしていなかったとして欠勤扱いとすることが許されるとされた事例。
参照法条 民法536条2項
労働基準法2章
労働基準法37条
労働基準法39条4項
労働基準法89条1項2号
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 欠勤による不就労
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定方法
年休(民事) / 時季指定権 / 指定の時期
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
退職 / 合意解約
裁判年月日 1998年6月5日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 5940 
平成8年 (ワ) 17200 
裁判結果 一部認容、一部棄却、一部却下
出典 労働判例748号117頁/労経速報1671号16頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-合意解約〕
 原告は、本件合意解約成立の根拠となる間接事実が存するとして縷々主張するが、それらの事実は、後記のとおり被告Y1解雇後に本件雇用契約に基づく労務提供の意思を失っていたことを裏付けるものではあっても、本件合意解約成立の間接事実となるということはできない。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-欠勤による不就労〕
 使用者が労働者の就労を事前に拒否する意思を明確にしているため、労働者が労務を遂行する債務を履行することが不可能であることがあらかじめ明らかである場合には、労働者が労務を遂行する債務を履行する旨提供しなくても、労働者の債務は、労務遂行の単位となる一定の時間的幅の開始の時点で履行不能になるものと解するのが相当であるが、これは、右の場合には、労働者に労務を遂行する債務につき履行の提供をさせるまでもないからにすぎず、右の場合といえども、労働者が客観的に就労する意思と能力とを有していることは当然の前提となるものというべきである。労働者が、使用者において受領を拒絶するか否かにかかわりなく、客観的に就労する意思又は能力をはじめから有していない場合には、労働者の責めに帰する事由による履行不能というほかなく、このような場合まで、使用者の責めに帰すべき事由によるものと解することはできないからである。
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 被告Y1は、時間外労働割増賃金及び深夜労働割増賃金算出の基礎となる被告Y1の「通常の労働時間又は労働日の賃金」に、営業手当四万円をも加算すべきである旨主張するが、後記のとおり、原告の就業規則上、営業手当は、時間外手当の固定給の意義を有するものとされているから、これを時間外労働割増賃金及び深夜労働割増賃金算出の基礎となる被告Y1の「通常の労働時間又は労働日の賃金」に加算すると、時間外労働に対して重複した手当が支給されることになるから、性質上、労働基準法三七条一項にいう「通常の労働時間又は労働日の賃金」に含まれないものと解するのが相当である。同条四項及び労働基準法施行規則二一条は、割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金を定めており、これらの規定は除外すべき賃金を制限列挙したものと解するのが一般であるが、労働基準法三七条一項は、使用者に割増賃金の支払義務を課し、その算定方法を定めているのであるから、同条四項及び労働基準法施行規則二一条に規定されていない賃金であっても、当該賃金が割増賃金の固定給の性質を有するのであれば、これを割増賃金の基礎となる賃金に算入しないことは、労働基準法三七条一項自体が当然の前提にしているものと解するのが相当である。
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
 仮に、原告と被告Y1との間の合意で前記の取扱いをする旨定められていたとしても、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効であり、無効となった部分は就業規則で定める基準による(労働基準法九三条)から、原告と被告Y1との間の右の合意は無効であり、スタッフフォロー業務に対しては、就業規則に従って時間外手当が支払われなければならないというべきである。なお、書面によらないで就業規則の内容を変更することはできないものと解するのが相当である。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定方法〕
〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 原告は、営業手当につき、これを営業職という職種に対する手当として位置付けている就業規則の規定にかかわらず、運用上、三箇月ごとに実際の売上げを中心とした営業成績の評価を行い、この評価に基づいて営業手当の額を決定することとしているため、実際に支給される営業手当の額は原告の右査定に応じて変動するものとなっており、賃金規程が三万円から五万円までの範囲内で支給することと定めていることに反する運用がされていることが認められるが、このような運用は、就業規則に基づかないものであるから、右査定の結果、労働者が就業規則の定める営業手当の最下限である月三万円を下回る額を決定され、支給されたときは、労働基準法九三条により、原告に対し、月三万円の額との差額の支払を請求できるものと解するのが相当である。
 労働基準法三七条の趣旨に照らすと、支払われた営業手当の額が同条に基づき算出する時間外割増賃金の額を上回るときは、営業手当の支払をもって同条に基づく時間外割増賃金の支払に代えたものということができるが、支払われた営業手当の額が同条に基づき算出する時間外割増賃金の額を下回るときは、原告は、その差額の支払義務を免れないものと解するのが相当である。
〔年休-時季指定権-指定の時期〕
 被告Y2は、原告に対し、平成七年三月二五日、四月六日、同月一二日、同月二七日、五月一日、同月一〇日、同月一三日、同月二六日及び同月二七日につき年次有給休暇を請求したと主張するが、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、被告Y2が事前に年次有給休暇の請求をしなかったことが認められるから、この事実に照らして考えると、原告が年次有給休暇として承認しなかった措置に違法はなく、これが不法行為に当たるということはできない。