全 情 報

ID番号 07169
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 インチケープマーケティングジャパン事件
争点
事案概要  顧客とのトラブル、上司への反抗等を理由とする解雇につき、「勤務成績不良で、改善の見込みがないとき」とする就業規則の解雇事由に該当し、解雇権の濫用に当たらず有効とされた事例。
参照法条 民法1条3項
労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1998年8月31日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 131 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例751号23頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 3 就業規則該当性
 (証拠略)によれば、被告の就業規則三九条二号には、勤務成績が著しく不良で、改善の見込みがないと会社が認めたときは、従業員を解雇しうるとの規定があることを認めることができる。
 そして、被告主張の解雇事由については、前述のとおり、2(一)、(二)及び(三)を除いて概ね認めることができるところ、その認定した個々の事実については、それだけをもって解雇事由とするにはいささか些細な事実にすぎないものもあり、A会社、B会社、C会社のサンプル作製に関する件などは、これを解雇事由とすることはいささか苛酷の感をぬぐえないところであるが、D会社、E会社、F会社、G会社の件は、被告の対外的信用にかかわる事柄であって、短期間に何度もこのような問題を起こすことは、経営者にとって看過しえないことであり、また、その各所為についての原告の反省は希薄であり、平成六年一一月二八日には、HとIにおいて、右各事項に関し、原告から事情を聴取した上、厳しく反省と自覚を促し、勤務態度が改善されない場合は、被告としても厳しい対応をとらざるを得ないことを原告に警告したのであるが、これに対し、原告は前述のH宛の書面(〈証拠略〉)のとおり、反省の態度を示すことなく、弁解と責任転嫁に終始する態度をとったもので、そのうえ、右警告後の平成七年三月にいたり、2(一四)、(一五)のとおり、原告は再びJ会社との間でトラブルを引き起こし、同社に対して被告の信用を相当に低下させたものといえ、前述のように同社は被告にとって重要な顧客であることからすれば、右トラブルは決して軽微といえず、むしろ重大なものであり、これが被告による原告に対する厳重な注意のわずか四か月足らずの内に二度もなされたもので、被告による注意を原告が重大なこととして認識していなかったことを窺わせる。また、原告はK会社の件についても、事後に何ら反省の態度を示さず、自らはきちんと説明をしたと言い張るなど、素直に自分の非を認めないなど、反省の態度が窺われない。これらを総合すれば、原告の所為は、被告就業規則三九条二号の「勤務成績が著しく不良で、改善の見込みがないと会社が認めたとき」に該当する。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 三 解雇権濫用
 1 原告が出張で出向いた顧客の件数が、平成五年に一八〇件であったのが、平成六年には一九三件、解雇された平成七年は五月までで六八件であること、解雇通告後の平成七年五月上旬にも、被告は、原告をL会社へプリンタの据え付けのために訪問させていることは当事者間に争いがない。ところで、原告は、サービス部門においては顧客とのトラブルは不可避であるといい、確かに顧客側が原因でこれが生ずることもないとはいえないが、前述のように、比較的短い期間に何度もあるということはないであろうし、原告のトラブルの回数は、右の原告が出向いた顧客の件数を考慮しても少ないとはいえないものである。そして、(証拠・人証略)によれば、原告については従来から顧客からの苦情が多いことが指摘されており、改善目標として苦情を減らすことが挙げられていたことが認められるにもかかわらず、原告本人(第一回)は、これを重大な問題と思っていないので目標にしていなかったというのであり、右苦情の多さの原因は、原告の勤務態度にあるといわざるを得ない。
 2 原告が本件解雇に至るまで被告から具体的な懲戒処分を受けたことがないことは当事者間に争いがないが、これをもって、本件解雇事由が軽微であるということはできない。前述のように、被告は、原告の一連の不祥事に対し、平成六年一一月二八日、厳重注意をしてその反省を促しているのに、再度、同様のトラブルを引き起こしたことは、これを軽微ということができない。また、(人証略)によれば、原告の業務については、できるだけ外部の顧客と接するものを減らすために、原告をサンプル担当にした面もあることが認められ、原告をサービスマン以外の業務につかせたことがないとはいえない。
 3 原告には、遅刻・早退・無断欠勤などは全くなく、サービスセンター内では一番早く出勤していた等の非常に真面目な側面があったことは当事者間に争いがないし、同僚間では業務に支障が生じるほど協調性が欠けていたわけではなく、顧客の中には原告を誉める者もあり、仕事熱心な側面もあったことを認めることができるものの、他方、(証拠略)によれば、自己の被告内での評価が低いことに関して、深い不満を持ち、技術部長のMに対して、賞与の減額に関して脅迫まがいの書面を送付したこともあることが認められる。
 4 以上によれば、右のとおり、原告には評価されるべき点も認められるが、そうでない部分もあり、前述のとおり、解雇事由を全体としてみた場合の重大性や、解雇前に注意や警告を受けたのにこれに対する反省がないということからすれば、右のような評価すべき点があるからといって、被告による解雇が著しく不合理であって、社会通念上相当なものとして是認することができないとはいえず、解雇権の濫用ということはできない。