全 情 報

ID番号 07225
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 東京油槽事件
争点
事案概要  改訂前の就業規則に基づく賃金及び退職金の支払請求につき、原告は新就業規則の内容を認識した上で明確にこれに同意したとして、右請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条2号
労働基準法89条3の2号
労働基準法93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 退職金
裁判年月日 1998年10月5日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 3383 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例758号82頁/労経速報1691号25頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-退職金〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
〔就業規則-就業規則と労働契約〕
 原告は、就業規則変更届に添付された意見書(〈証拠略〉)に従業員代表として署名・捺印したAは、ボイラーマンにすぎず、内容の確認もせず、被告に言われるままに署名・捺印した旨主張し、陳述書(〈証拠略〉)には同趣旨の記載があり、原告本人尋問中にも同様の供述部分がある。
 しかし、原告は、平成六年三月九日には被告から就業規則の改定について記載された書面の交付を受けたというのであり(原告本人尋問の結果)、本件退職金条項、本件減給条項についても同年二月ころから五月ころにかけて説明されており、右Aも同意書に署名・捺印している(〈証拠略〉)。
 これらのことからすると、右A名の意見書が作成された平成六年三月二四日ころ、原告やAを含む被告の従業員は、就業規則の改定内容について認識していたものと推認することができる(なお、この点に関連して、原告は、新就業規則については一切知らなかったし、就業規則も受領していない旨主張し、その本人尋問においてもこれに沿う供述をするが、原告自身平成六年三月九日就業規則の改定について記載された書面の交付を受けたこと、平成六年二月一六日本件減給条項についての説明を受けたことを認めていること、新就業規則はB五版の水色のファイルにして全従業員に配付した旨〈人証略〉が具体的に証言していることなどに照らせば、原告の右供述部分は直ちに信用できない。)。加えて、BがAに意見書を作成してもらう際、あらかじめ同人の都合を聞いて内容を説明したこと(〈証拠・人証略〉)からすれば、少なくともAが新就業規則の内容について何も知らないまま意見書を作成したということはできない。
 なお、原告本人尋問における供述部分や陳述書(〈証拠略〉)の記載は、いずれも伝聞にすぎず、その信用性に疑いがある上、Aが原告に述べたことが事実であるとしても、それが真実であることを裏付ける証拠もないので、右各証拠は採用できない。
 3 右の事情及び減額された給与や支給された退職金に対し、原告が平成九年一月三一日ころまで異議を述べたことがないことなども併せて考慮すれば、原告は、本件減給条項、本件退職金条項について内容を認識した上、これに明確に同意したものというべきである。