全 情 報

ID番号 07238
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 高栄建設事件
争点
事案概要  会社の寮から労務を提供すべき場所である工事現場までの往復の時間は、賃金を発生させる労働時間ではないとされた事例。
 労使間における時間外勤務時間については賃金を支払わないという合意は労働基準法三七条一項に違反して無効とされた事例。
 時季指定に係る労働日以後にされた有給休暇の請求は、使用者に振替えを求めるものにすぎず、使用者の裁量に委ねられるとされた事例。
 労働者を就労させなかったのは仕事がなかったためであるとして、休業手当請求が棄却された事例。
 附加金請求につき、判決確定前は支払義務はないとされた事例。
参照法条 労働基準法26条
労働基準法32条
労働基準法37条1項
労働基準法39条4項
労働基準法114条
体系項目 賃金(民事) / 休業手当 / 休業手当の意義
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 労働時間の始期・終期
年休(民事) / 年休の振替
雑則(民事) / 附加金
賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
裁判年月日 1998年11月16日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 10870 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例758号63頁/労経速報1700号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間-労働時間の概念-労働時間の始期・終期〕
 原告が被告で就労中に従事していた業務の内容(前記第三の一1)に照らせば、原告が被告との間で締結した雇用契約は、原告は被告が指示する工事現場において水道本管埋設工事及びこれに付随する工事に従事し、被告はこの労務に対し賃金を支払うというものであるから、原告が労務を提供すべき場所は被告の指示に係る各工事現場であるというべきであるところ、被告の指示に係る工事現場まではバスで行くことになっていたのである(前記第三の一2)から、被告の寮から各工事現場までの往復の時間はいわゆる通勤の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものであり、原告の主張に係る労働時間にこの通勤の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものが含まれていることは原告の主張から明らかであること、夜間作業の多くは午後一〇時すぎころから開始されていたのであり(前記第三の一1)、原告が派遣されていた工事現場名(前記第三の一1)からうかがわれる工事現場の所在地からすれば、被告の寮の所在地から工事現場に行くのに要する時間が三時間以上になることは考えがたいのであって、被告の寮から各工事現場まで行くのに要する時間を差し引いても少なくとも午後六時台から原告の主張に係る労働時間が始まることが頻繁に見られることはいささか不自然であるといえること、被告の寮から各工事現場までの往復の時間が通勤時間の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものである以上、これについては原則として賃金を発生させる労働時間に当たらないものというべきである(もっとも、資材置場に立ち寄った場合については単なる通勤の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものであるということはできないが、かといって、資材置場に立ち寄ったというだけでは被告の寮から各工事現場までの往復が賃金を発生させる労働時間であるということもできない。)〔中略〕
〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 仮に原告と被告が右の(1)で述べたように原告の時間外勤務時間については賃金を支払わないという合意をしたとしても、その合意は労働基準法三七条一項に違反して無効であり、したがって、被告は平成七年一月から平成八年一〇月までの原告の時間外勤務に対する賃金を支払う義務を負っているものと認められる。〔中略〕
〔年休-年休の振替〕
 四 争点4(年次有給休暇相当分の支払義務の有無)について
 1 平成九年一月一三日、同月二七日、同年二月一〇日、同月二〇日及び同年三月一七日の有給休暇について
 (一)ア 使用者は労働基準法三九条一ないし三項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない(同条四項)が、労働者による有給休暇の請求は時季指定に係る労働日以前にされなければならないのであって、有給休暇の請求が時季指定に係る労働日以後にされた場合の有給休暇の請求とは、有給休暇の請求が事前にされなかったために当該労働者の指定に係る労働日の就労義務が消滅しておらず、したがって、当該労働日は欠勤と取り扱われたことについて、労働者が欠勤とされた日を有給休暇に振り替える措置(いわゆる年休の振替)を求めるものにすぎず、労働基準法三九条四項に規定する有給休暇の請求とは異なるものである。そして、使用者が年休の振替を認めるかどうかは使用者の裁量に委ねられているというべきである。
 イ 被告では従業員から事後に有給休暇の請求があってもこれを認めない取扱いをしていたのであり、原告の平成九年一月一三日と同月二七日を有給休暇とする旨の請求は事後の請求であったこと(前記第三の一5)からすれば、被告が平成九年一月一三日と同月二七日に原告が欠勤したことについて有給休暇への振替を認めなかったことが違法であるということはできない。〔中略〕
〔賃金-休業手当-休業手当の意義〕
 五 争点5(休業手当相当分の支払義務)について
 被告が原告の主張に係る日にち(前記第二の三5(一))に原告を稼働させなかったのは被告に仕事がなかったからである(前記第三の一6)というのであるから、被告が原告の主張に係る日にちについて賃金の支払義務を負うことはない。原告の休業手当相当分の金員の請求は理由がない。〔中略〕
〔雑則-附加金〕
 3 原告は付加金の支払について遅延損害金の支払を求めているが、付加金支払義務は、その支払を命ずる裁判所の判決の確定によって初めて発生するものであるから、右判決確定前においては、右付加金支払義務は存せず、したがって、これに対する遅延損害金も発生する余地はない。したがって、原告の付加金の請求のうち遅延損害金の支払を求める部分は失当である。