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ID番号 07239
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 社団法人大阪市産業経営協会事件
争点
事案概要  原告は訴外社団法人に雇用された事務局職員であり、当該法人を含む四団体の統合により被告社団法人が事業継続をしたが、原告の雇用契約は当然に解消されるとされたことにつき、両者には継続性が認められ、原告を解雇する理由はないとして、右解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1998年11月16日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 7107 
裁判結果 一部認容、一部却下、一部棄却(控訴)
出典 労働判例757号74頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 被告は、A法人が平成九年二月に定款変更決議をして名称及び目的等を変更し、同年四月にB法人、C法人及びD法人の三団体を統合した法人であって、A法人の会員がいったん退会することなく継続していることに照らしても、A法人とE法人との間には明らかに継続性が認められ、A法人が同年三月末日をもって事実上解散したと解することはできないというべきである。
 確かに、右統合に至る経緯を実質的に見ると、指導センター関係四団体はもともと対等の立場で統合して新団体を結成することを予定していたところ、新たな社団法人の設立が困難であったため、A法人の法人格を存続させ、他の三団体が解散してA法人に吸収される形式を取ったものと解されるから、その意味で、実質的には、会社の新設合併に類似すると解することができ、A法人とE法人との間には、社団としての性格に一定の差異が存在することも否定できないところであるが、だからといって当然に従前の雇用関係を解消することが許されると解することはできず、本件解雇の有効性を判断するためには、就業規則第一九条(4)に定める「やむを得ない業務上の都合」の有無を実質的に検討することを要するというべきである。したがって、以下、本件解雇において右やむを得ない業務上の都合が存在するか否かについて、被告の主張に沿って検討する。
 (一) 被告は、継続するA法人の職員のみを解雇せずに雇用を継続することは、他の三団体との関係上不可能であったと主張する。
 しかしながら、前記のとおり、平成九年三月時点において、事務局に正規職員を有していたのはA法人のみであって、他の団体には、臨時職員(なお、〈人証略〉によれば、臨時職員の雇用期間は二か月であることが認められる。)が三名いたに過ぎないのであるから、他の団体との関係で被告が原告を解雇しなければならなかったものとは認められない。
 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
 (二) 被告は、E法人においては、経費節減の必要性から、事務局長以外の事務局員を雇用することは不可能であったと主張する。確かに、前記のとおり、当初は、四団体統合後の事務局においても、事務局長のほかに事務局職員を一名配置する予定であったが、平成九年二月二一日の設立実行委員会において、経費節減のため、事務局職員を雇用せず、臨時職員で対応することとされたことが認められる。しかしながら、前記認定のとおり、被告の平成九年度予算では、事務局職員の給料手当として、事務局長一名及び臨時職員三名を雇用することを前提として、前年度を一四〇万円上回る九〇〇万円が計上され、これが同年四月二三日の総会で承認されているのであるから、平成九年四月時点において、被告が、原告を解雇しなければならないほど財政的に逼迫していたとは認められない。また、現実にも、被告は平成九年度において事務局長一名と臨時職員一名ないし二名を雇用し、給料手当を五五八万四三三六円支出したのであるから、仮に臨時職員一名の替わりに原告を雇用していたとしても、前記予算の範囲内に収まることは明らかである。したがって、被告の主張は採用できない。
 なお、(証拠略)によれば、平成一〇年度予算案では、給料手当は六〇〇万円に減額されていることが認められるが、これは、本件解雇後の事情であるから、本件解雇の効力を検討するに当たり考慮することはできない。
 (三) また、被告は、原告の協調性に欠ける性格により、原被告間の信頼関係が喪失していたことも本件解雇の理由に挙げるかのようであるが、右主張は、抽象的であって具体性に欠け、原告の性格が被告の業務にいかなる支障を及ぼしたのか明らかでないし、また、原告の性格が原因で原被告間の信頼関係が喪失していたことを認めるに足りる証拠もない。
 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
 2 以上のとおり、本件解雇の必要性に関する被告の主張はいずれも採用することができず、原告を解雇しなければならないやむを得ない業務上の都合の存在は認められないというほかはないから、本件解雇は、解雇権を濫用するものとして、無効であるというべきである。