全 情 報

ID番号 07265
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 日新火災海上保険事件
争点
事案概要  求人広告は、それ自体個別的な雇用契約の申込みとはいえず、その記載をもって直ちに雇用契約の内容になっているとはいえず、本件では、中途採用者につき、新卒同年次定期採用者の平均給与を支給するという雇用契約が成立したとはいえないとされた事例。
 人事考課は使用者の裁量に属することであり、それが不当なものでない限り、直ちに昇給差別があったとはいえないとされた事例。
参照法条 労働基準法16条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働条件明示
労働契約(民事) / 人事権 / 昇給・昇格
裁判年月日 1999年1月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 11709 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例759号45頁/労経速報1703号6頁
審級関係
評釈論文 西村健一郎・民商法雑誌121巻6号105~113頁2000年3月
判決理由 〔労働契約-労働条件明示〕
 そもそも、求人広告は、それ自体個別的な雇用契約の申込みとは言えないものであるから、その記載を直ちに原告と被告との雇用契約の内容であるということはできない。
 また、被告の求人広告は、前記のとおり、中途入社者、第二新卒者を区別して明記しており、その具体的な説明も両者の項目を分けて説明する体裁を採っており、第二新卒者に関する説明は「あるいは」という書き出しで始まり、その中で、八九年卒の者の場合を例示し、第二新卒者に対しては、新卒同年次定期採用者と同額の給与を支給することが記載されており、中途入社者の説明と解するのは困難である上、中途入社者の項目では、「納得していただけるような待遇を用意してお待ちしています」と記載するにとどまっていることからすれば、同記載が中途入社者に対しても、新卒同年次定期採用者と同額の給与を支給する旨記載しているものと解することはできない。〔中略〕
〔労働契約-人事権-昇給・昇格〕
 二 入社後の原告の格付及び基本給月額について
 1 まず、入社時については前記のとおり、原告と被告との間で、原告に対し新卒同年次定期採用者の平均給与を支給する旨の雇用契約が成立したと認めることはできないし、中途入社者について新卒入社者の最下限を勘案して格付をしたとしても不当な差別とはいえないから、入社時の格付が本件雇用契約違反であるとする原告の主張を前提とした入社後の格付、月額基本給及びこれを基礎として算定される付加給、臨時給与、時間外手当についての原告と同年齢の新卒入社者の最も多数が該当する格付、月額基本給及びこれを基礎として算定される付加給、臨時給与、時間外手当との差額を請求する原告の請求は理由がないというほかない。
 なお、別紙〈略-編注〉記載の平成四年四月、八月における休日出勤については、振替休日等で処理されており、時間外手当が発生していないことは当事者間に争いがない。
 2 ところで、前記のとおり、被告における入社後の昇級・昇格については、新卒入社者も中途入社者も同様の考課が適用されるところ、原告の入社時においても、満三三歳の社員の格付にばらつきがあったことは前記のとおりである上、被告の考課実態(〈証拠略〉)によれば、同年齢であっても、その全員について同一の格付がなされているわけではなく、年齢が高くなるにしたがって、同年齢の社員が分布する格付の範囲が広くなっていること、中途入社者でも、同年齢の社員が分布する格付の中位から上位に該当する者もいることなどが認められることに照らせば、被告が勤続年数に応じて全員が同時に昇級するようないわゆる自動昇級制度を採用していないことは明らかである。そうすると、原告の格付が、同年齢の社員の最も多数が該当する格付より低いとしても、考課は被告の裁量に属することであるから、それが不当なものでない限り、直ちに昇級差別があったということはできない。