全 情 報

ID番号 07266
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 東洋興業事件
争点
事案概要  退職金請求につき、臨時社員としての入社日を起算点とする退職金規定は存在しないとして、右請求が棄却された事例。
 初任給に関する労使慣行があるとしてなされた賃金請求につき、原告主張の労使慣行は存在しないとして棄却された事例。
参照法条 労働基準法24条1項
労働基準法89条3の2号
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 賃金の計算方法
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1999年1月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 11210 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1702号13頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 一 争点1(退職金計算の基礎となる勤務年数の起算点)について
 1 原告が、昭和四六年六月一七日臨時社員として採用され、同年一一月二一日正社員となったことは、前記第二の一1のとおりである。
 2 (書証略)によれば、被告の退職金規定上、「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」には退職金を支給しないこととされていることが認められ(二条二号)、これによれば、被告の退職金規定においては、臨時社員は退職金支給の対象外とされていることが明らかであるから、退職金規定七条で起算点とされている「入社日」とは、正社員としての入社日を意味すると解するのが相当である。
 3 よって、臨時社員としての入社日を起算点とする原告の退職金請求は、理由がない。
〔賃金-賃金請求権の発生-賃金の計算方法〕
 二 争点2(初任基本給に関する原告主張の労使慣行の有無)について
 1 原告は、訴外Aの初任基本給一八万四六一七円をベースに、労使慣行に従い、定昇を除く賃上げ額を換算すると、平成五年度の初任基本給は二八万三三三八円であり、これを元に原告の賃金を計算するべきであると主張するが、これだけでは、どのような労使慣行があると主張するのか明確であるとは言い難い。
 この点につき、原告の陳述書(書証略)には、「従前から、労使間の慣行として、前年度入社した社員の基本給に年度別昇給額(定期昇給額を除く)を加算するという方法をとっていました」との記載があり、本人尋問において原告は、「会社に入社しました直近者の基本給に、毎年四月の春闘時期にございますベースアップから定期昇給額を除いた金額を加算したものが新しい年度の初任基本給という慣行で扱っておりました」と供述しているので、このような労使慣行があるとの主張であると理解することとする。
 2 そこで検討するに、本件全証拠によっても、原告が主張する労使慣行により算出された初任基本給の支払を受けた者(新入社員)がいるとは認められない(書証略も、昭和四六年入社の原告を基準にして作成されたものであって、前年度入社した社員あるいは直近に入社した社員を基準にして作成していったものではない)。原告自身、本人尋問において、実際には、原告が主張するようには初任基本給が支払われてこなかったことを認めているところである。慣行があるというためには、相当長期間にわたってその算出方法によって初任基本給が支払われてきたという事実が必要であるにもかかわらず、そのような事実は認められないことになる。そうすると、原告が主張する労使慣行なるものが存在していたとは到底認められない。
 なお、被告は一九八九年(平成元年)八月二四日の労使懇談会で初任基本給が定められたと主張し、原告はこれを争っている(原告は、労使慣行の主張立証よりも、むしろ被告の主張を争うことに力点を置いた訴訟活動を行っている)。しかし、原告主張の労使慣行の存在が認められない以上、原告の未払賃金請求が認められる余地はないのであって、さらに被告主張の事実の存否について検討する意味はない。
 3 よって、原告の未払賃金請求は理由がない。