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ID番号 07272
事件名 降格処分取消し及び損害賠償請求事件
いわゆる事件名 北日本自転車競技会事件
争点
事案概要  総務部長職にあった者に対し昇給を三か月延伸したことにつき、勤務成積等を考慮して行われたもので差別ではないとされた事例。
 部長職を解き、本部付勤務を命ずる旨の処分につき、合理性が認められ人事権の濫用に当たらず有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 労働契約(民事) / 人事権 / 降格
裁判年月日 1999年1月27日
裁判所名 福島地いわき支
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 210 
裁判結果 請求棄却(控訴)
出典 タイムズ1006号173頁
審級関係
評釈論文 松本哲泓・平成11年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1036〕358~359頁2000年9月
判決理由 〔労働契約-人事権-降格〕
 被告競技会の職員給与規程九条一項は、職員が「一二か月以上の期間を良好な成績で勤務したとき」は、定期昇給をさせることができる旨規程しているが、この規程からは、被告競技会として、一二か月の期間を経過したときは、当然に定期昇給させなければならないとはいえず、定期昇給させる期間をどの程度にすべきか、何をもって「良好な成績」とすべきかについては、被告競技会に裁量の余地を残しているというべきである。そして、その基準については、更に被告競技会によって定められた細則、労使間の合意、労使慣行等が尊重される必要がある。〔中略〕
 本件昇給延伸処分が合理的裁量に基づくものであるかについて検討するに、A会長は、平成八年六月から七月を目途に行う予定の人事配置と原告の総務部長としての勤務成績等を考慮して右処分を行ったものであるが、平成八年三月当時、被告競技会が深刻な財政難に陥っていたこと、A会長の右当時の構想は、右財政難を克服するための方策として一応合理的なものであったといえること、原告は、被告競技会において一般職員が就き得る最高位のポストである総務部長職にあったものであること、ところが、後記三において検討するように、A会長は、原告について、平成八年三月までの勤務成績からみても、統率力、指導力、熱意、意欲及び能力等の面において、被告競技会が当面する緊急の懸案課題を処理していくには総務部長として不適格であると判断したものであるところ、その判断に裁量権の逸脱は認められないこと、A会長は、本件昇給延伸処分当時すでに大幅な機構改革を七月に行うことを構想しており、それまでの暫定的な措置として三か月に限定して原告に対する昇給を延伸する予定であったこと等の事情に照らせば、A会長が原告について「良好な成績で勤務した」とは認められないと判断して、三か月間定期昇給を延期した処分が、その裁量の範囲を逸脱したものとはにわかに認めがたいというべきである。したがって、右処分は、A会長の恣意的判断による不当な処分であるとの原告の主張は採用できず、右処分は有効であるから、本件昇給延伸処分が無効であることを前提とする原告の請求は理由がない。〔中略〕
 被告競技会における人事権は会長に委ねられており、その判断には一定の幅の裁量が与えられていること、特に、総務部長職は被告競技会における一般職員が就き得る最高位のポストであり、競技会全体の事務をほぼ総括する立場にあることからして、それに対する人事権の裁量の幅は他の職員に対するそれに比べて広範なものであるということができる。〔中略〕
 A会長が、平成八年三月の時点で、原告について、その統率力、指導力、熱意、意欲及び能力等において、被告が当面する緊急の懸案課題を処理していくには総務部長として不適格であると判断していたことは、当時、被告競技会が置かれた困難な状況、総務部長という重要なポストに関するものであることを前提とすれば、不合理なものであるとはいえない。