ID番号 | : | 07298 |
事件名 | : | 退職金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ディオス事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 競合会社設立への関与、また従業員の引き抜きを行ったことを理由とする懲戒解雇につき、就業規則には競合会社設立禁止規定がないこと、また懲戒処分に価するような勧誘行為とも言えないとして、右懲戒解雇が無効とされた事例。 右の無効な懲戒解雇を理由とする会社に対する損害賠償請求が認容された事例。 |
参照法条 | : | 民法709条 民法710条 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 二重就職・競業避止 |
裁判年月日 | : | 1999年3月12日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成10年 (ワ) 4567 平成10年 (ワ) 5786 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労経速報1714号23頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-二重就職・競業避止〕 一 本件懲戒解雇の効力について 1 当事者間に争いのない事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告の取締役であったAが、独立して新会社を設立するため、平成九年一〇月三〇日取締役を辞任し、平成一〇年一月一六日B会社を設立したこと、平成九月一一月二一日に開催されたAの送別会の二次会に原告X1が参加したこと、原告X1は、同年一二月一〇日頃、勤務時間中に、被告の従業員で原告X1の部下であるCを喫茶店に呼び、「会社を辞める。今度新しい会社を作るから良かったら来ないか」と述べたこと、原告X1は、B会社設立当初から同社の取締役に就任し、一〇〇万円の出資もしたこと、被告の従業員であったD及びE、F会社の従業員であるGが退職し、右三名はB会社に入社したこと、原告らは、同年一二月二九日にAが主催した忘年会及び平成一〇年一月二〇日に開催されたB会社の発足パーティーに参加したこと、原告X2は、現在に至るまでB会社の役員又は従業員とはなっていないこと、以上の事実が認められる。 2 右事実によれば、原告X1は、B会社設立に相当深く関与していたことが推認される(この点につき、B会社設立への関与を全く否定する原告X1の供述は信用できない)が、被告を退職した従業員が競合会社を設立することが禁止されているわけではないこと(このことは、被告取締役である(人証略)も認めるところである)からすれば、原告X1がB会社設立に深く関与したことは何ら懲戒解雇事由になるものではない。もっとも、競合会社設立に当たり、在職中に社会的相当性を欠くような手段を用いて被告の従業員を引き抜くなどした場合には、被告に対する背信的な行為として、懲戒解雇事由になる余地があるというべきであるが、被告が原告X1による引抜工作と主張するのは、Aの送別会の二次会への参加及びCの勧誘であるところ、(人証略)によれば、右二次会において原告X1が具体的な勧誘行為を行った事実はなかったことが認められ、また、(人証略)によれば、原告X1がCに対して行った勧誘行為は、条件等も示さずに単に良かったら来ないかと述べたのみであって、その後原告X1が執拗に勧誘を繰り返した事実もないことが認められるから、いずれも懲戒解雇理由になるほど社会的相当性を欠く行為であるとはいえない。 一方、原告X2については、Aの送別会の二次会にも参加しておらず、B会社設立への関与の程度も不明であり(被告は、H会社の業務と称してB会社設立に奔走していたと主張するが、かかる事実を認めるに足りる証拠はない)、その他被告従業員に対し勧誘行為をしたことを窺わせる証拠はない。(人証略)は、原告X2の引抜行為等について証言するが、いずれも客観的根拠のない憶測に過ぎないもので、採用できない。 3 被告は、平成九年一一月七日開催の定例経営会議において、原告X2を含む幹部社員に対し、「Aが新会社を設立する動きがあり、引抜工作が行われる危険があるので、組織の点検をするとともに、部下社員の動きに注意して引抜きなどの動きがあったときには、すぐに連絡すること」を指示したにもかかわらず、原告は右指示に反した旨主張するので、検討する。 この点については、被告の主張に沿う(書証略)(経営会議議事録)が存在する。しかしながら、右議事録は、それまで議事録が作成されていなかった経営会議において突然作成されていること、作成日付も被告の休日である土曜日であることなど不自然な部分があり、また、(人証略)によれば、その原本の保管がどのようにされているのかも曖昧であって、真実経営会議の直後に作成されたものかは疑わしい。また、(人証略)によれば、被告代表者は、当時、Aが退職して独立することをむしろ応援していたことが窺われ、経営会議において引抜工作を警戒してこれに対する対策が指示されたというのもやや不自然である。したがって、右経営会議において、真実被告が主張するような指示がされたのかは疑問である。また、仮にそのような趣旨の指示がされたとしても、前記認定によれば、原告らがこの指示に明らかに違反したといい得るのは、原告X1がCを勧誘した程度であるが、原告X1が既に退職を決意し、B会社の設立にかかわっていたことを考慮すると、右勧誘行為は懲戒解雇を正当化するほど重大な業務命令違反であるとは評価できない。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 三 不法行為について 1 被告は、原告らに対し、無効な懲戒解雇を行ったものであるが、(人証略)によれば、被告は、本件懲戒解雇をするに際し、他の被告社員の報告のみに基づき、原告らに事情聴取することもなく、多分に憶測に基づいて安易に懲戒解雇という重大な処分を行ったといわざるを得ないのであって、かかる経緯に鑑みれば、本件懲戒解雇は、原告らに対する不法行為も構成するというべきである。また、被告が、原告らを懲戒解雇した旨記載した本件書面を取引先等約三〇社に送付したことも、原告らの名誉を毀損する不法行為を構成するというべきである。 2 そこで、原告らの損害について検討するに、原告X2本人、原告X1本人その他弁論の全趣旨を総合すると、本件懲戒解雇及び懲戒解雇した旨を明記した本件書面の送付により、原告らは相応の精神的苦痛を被り、また、その名誉を毀損されたことを認めることができること、他方、原告X1は前記のとおりB会社設立に関与し、その取締役に就任しているのであって、再就職が困難になったという事情は認められず、原告X2についても、再就職していないのが被告の不法行為が原因であるとまでは認めがたいこと等の事情を考慮すると、その損害額としては、原告らそれぞれにつき三〇万円が相当である。 |