全 情 報

ID番号 07315
事件名 就労義務不存在確認等請求事件
いわゆる事件名 JR西日本(労働時間制度変更)事件
争点
事案概要  JR西日本の労働者が、JR西日本における待合せ時間制度及び待合せ勤務制度の廃止、一勤務時間の労働時間制限の緩和、一継続乗務キロ限度の延伸を内容とする就業規則の変更につき、不当な就業規則の不利益変更であり、新たな就業規則の下での就労義務はないことの確認を求めて争ったケースで、就業規則の不利益変更であることは認められたが、その他の請求につき棄却された事例。
参照法条 労働基準法32条
労働基準法89条1項1号
労働基準法93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 労働時間・休日
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 手待時間
裁判年月日 1999年3月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 4128 
平成7年 (ワ) 12877 
裁判結果 一部却下、一部棄却(控訴)
出典 労働判例761号58頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間〕
 本件変更は、〔1〕みなし労働時間を廃止して見かけ上の労働時間を減少させることにより、従来は超過勤務として超勤手当等の支給対象となっていた時間を労働時間と評価しないこととなって、そのかぎりで賃金を減少させるとともに、乗務割交番作成の上限を実質的に拡大するものであること、〔2〕動力車乗務員の二暦日にわたる一勤務の労働時間の制限を緩和するものであること、〔3〕動力車乗務員の一継続乗務キロの限度を延伸し、従来は二人乗務であった区間において一人乗務を可能にするものであることの三点において、旧規程における乗務員の労働条件を不利益に変更するものである。〔中略〕
 本件変更は乗務員の労働条件を不利益に変更するものであるというべきところ、就業規則を労働者の同意なく不利益に変更することは、原則として許されないけれども、当該変更が、その必要性及び内容の両面から見て、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における法的規範性を是認できるだけの合理性を有する場合には、就業規則を不利益に変更することも許され、個々の労働者において、これに同意しないことを理由としてその適用を拒否することはできないと解される。〔中略〕
〔労働時間-労働時間の概念-手待時間〕
 待合せ時間の制度は、労基法上は労働時間とはいえない時間のうち一定の時間を労働時間とみなすことにより、その時間を賃金支払の対象としていた制度であるということができ、待合せ勤務時間の制度も、労働時間とはいえない時間も含め一律に労働時間を指定していた制度であって、待合せ時間の制度と同様の性格を有するものであったということができる。したがって、待合せ時間の制度を廃止すること及び待合せ勤務時間を廃止し、代わって労働実態に合わせて積算した看視時間及び折返し準備時間を設定することは、いずれも労働実態のある時間のみを労働時間と捉えようとするものであって、それ自体は何ら不合理なものではない。
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間〕
 そして、労基法に定める法定労働時間は、労基法上の労働時間(労働実態のある時間)を前提とした時間であることはいうまでもないから、労働実態のない時間をも労働時間に組み込む旧制度は、労基法上の労働時間概念に対応していないのであって、この制度を維持していたのでは、法定労働時間の短縮への対応について、他の従業員との間に不公平が生じるなどの無理が生ずることは容易に想像し得るところであり、被告が、労働実態のある時間、すなわち労基法上の労働時間のみを労働時間とすることによって、労働時間の内容を労基法のそれと同一のものとし、今後の労働時間の短縮に対応しようとしたことは、正当な目的に基づくものであって、その必要性を肯定することができる。
 もっとも、かかる必要性は、あくまで労働時間の概念を労基法上の労働時間概念に対応させるという目的の限りにおいて認められるものであるから、これによってかえって労働時間を延長することは許されないというべきであるし、また、みなし労働時間の廃止は、見かけ上の労働時間を減少させることにより、当然に賃金の減額をもたらすものであるが、本件においては、乗務員の賃金を減額しなければならない事情は全く窺われないから、賃金について十分な補填措置が講じられる必要がある。かかる見地から見ると、本件変更が、動力車乗務員について乗務割交番作成の上限を実質的に延長する結果となることは、右必要性の範囲を超えるものである。しかしながら、被告においては、具体的な労働時間は列車ダイヤに基づいて作成される乗務割交番によって定まるのであるから、本件変更により、実質的に乗務割交番作成の上限が拡大されたとしても、右は、労働時間が延長される可能性があるというにとどまり、いわば抽象的な不利益に過ぎない。そして、別表1によると、原告ら所属の各区所における年間平均労働時間は、一八〇〇時間ないし一九〇四時間の範囲内であって、前記のような乗務割交番作成の上限の拡大による不利益が現実化している区所は存在せず、他にかかる不利益が現実化している区所が存在することを認めるに足りる証拠もない。このように、本件変更は、乗務割交番作成の上限を拡大するという点で動力車乗務員に不利益なものではあるけれども、その不利益は抽象的なものであって、いまだ現実化していないということができる。そして、各区所の現実の一日平均労働時間の状況から見て、その現実化の可能性も認められないから、右不利益の存在のみをもって、本件変更の効力を否定すべきではない。また、前記認定によれば、乗務員の労働時間は、本件変更以降実質的に見ると必ずしも減少しているとはいい難く、かえって増加している部分もあり、本件変更が労働時間の短縮につながっているとは評価できない面もあるけれども、これは、本件変更後のダイヤ編成及び乗務割交番作成の運用の問題であって、待合せ時間及び待合せ勤務時間の廃止とは直接の関連性はないと考えられ、このことにより本件変更の合理性自体が否定されるものではない。
 したがって、待合せ時間及び待合せ勤務時間の廃止は、これによる賃金の減額が補填される限り、その合理性を肯定することができる。〔中略〕
 本件変更の中心的部分である待合せ時間及び待合せ勤務時間の制度の廃止は、賃金規程の変更とあわせてみれば、その必要性及び合理性を肯定することができ、動力車乗務員の一勤務の労働時間の制限の緩和及び動力車乗務員の一継続乗務キロの限度の延伸についても、その不利益の程度及びこれとあわせて行われた労働条件の改善等を総合すると、いずれもその合理性を認めることができるのであって、本件変更は、全体として合理性を有し、原告らは、これに同意しないことを理由に、その適用を拒絶することは許されないというべきである。