全 情 報

ID番号 07326
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 タツミ保険サービス事件
争点
事案概要  保険会社の従業員が、日報の不作成・遅刻、業績悪化、保険金請求手続・保険料集金の懈怠、さらには保険契約の無断解約、会社と競合関係に立つA保険サービスの便宜を図ったことを理由に即時解雇されたのに対して、右即時解雇を違法として解雇予告手当及び退職金を請求したケースで、日報の不作成・遅刻、業績悪化、保険金請求手続・保険料集金の懈怠はそれだけでは即時解雇を正当化しないが、保険契約の無断解約、会社と競合関係に立つA保険サービスの便宜を図ったことは重大な背信行為に当たり、即時解雇を正当化するとして右請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法20条1項
労働基準法11条
労働基準法89条1項3号の2
体系項目 解雇(民事) / 解雇予告と除外認定 / 労働者の責に帰すべき事由
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1999年4月23日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 10610 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1718号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇予告と除外認定-労働者の責に帰すべき事由〕
 原告は、被告が除外認定を受けていないことや、離職票に懲戒解雇と記載していないことなどを問題としているが、除外認定は行政庁である労働基準監督署による事実の確認手続に過ぎず、即時解雇の不可欠の要件とは解されないし、(人証略)によれば、被告には就業規則が存しないことが認められ、懲戒解雇が普通解雇と分別して予定されていたものではなく、被告が予告手当支払義務を負うか否かは、本件解雇が懲戒解雇か否かではなく、原告に帰責事由があるかどうかによって判断されるべきである。
 そこで、このような観点から判断するに、右認定事実によれば、原告には、日報の不作成や遅刻、業績悪化などのほか、保険金請求手続や保険料集金の懈怠などがあって、勤務態度や業績について問題が少なくなかったと認められるが、そのことだけでは、未だ、解雇予告や予告手当の支払を不要とするまでに重大な帰責事由があるとすることはできない。
 しかしながら、さらに、原告には、平成九年一二月にB会社の保険契約を無断解約して、その解約金を着服したことや平成一〇年三月のB会社の保険契約の代行に当たって、A保険サービスを代理人とする保険契約を締結させたことも認められるのであって、これらは重大な背信行為というべきである。とりわけ、原告が、後者の契約代行の際、A保険サービスの従業員であることを示す名刺を使用していること(前記のとおり、右契約に際して名刺を急遽作成したという原告の供述は不自然であって信用できず、原告がこの名刺を不断に持ち歩いていたものと解される)、原告はCとかねてから懇意にしており、本件解雇後はA保険サービスに雇用されてCらとともに保険代理業務に従事していることなどからすると、原告は、被告在職中であるにもかかわらず、自発的かつ積極的に、被告と競業関係に立つA保険サービスの便宜を図ったものと推認できるのであって、原告の背信性は大きく、その行為は悪質というほかない。
 これらの諸事情に鑑みると、被告が、原告を即時解雇したことには相当の理由があったと認められ、本件解雇は、原告の責に帰すべき事由に基づいてなされた場合に該当するというべきである。
 そうすると、被告には、予告手当の支払義務が存するとは認められず、その支払を求める原告の請求は理由がない。〔中略〕
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 被告には退職金の支給について定めた規程は存しないものと認められる。
 原告は、過去に、退職金またはこれに代わる物品の支給を受けた退職者が存したと主張し、本人尋問で、退職時に自動車とか時計などの支給を受けた退職者が存したと供述する。
 しかしながら、原告の右供述によっても、従前の退職者には、一律に物品支給がなされてきたというものではなく、その支給基準も一切不明であって、仮に、退職者に対する物品支給の事実が存したとしても、被告からの恩恵的支給に留まるものというほかない。
 そうすると、退職金の支給が原被告間の雇用契約の内容となっていたものとは認められず、原告に退職金請求権が存するとはいい難い。