全 情 報

ID番号 07336
事件名 地位保全金員支払仮処分申立事件
いわゆる事件名 ヤマハリビングテック事件
争点
事案概要  住宅設備機器、建築部材等の製造・販売を業とする会社で、営業所長であった者が任意退職した後、右退職は、部下が架空売上を計上していたこと等の違法行為につき、会社から任意に退職しなければ懲戒解雇する旨告げられたことから行ったものであり、この意思表示には錯誤があり、無効であるとして地位保全・賃金仮払いの仮処分を申し立てたケースで、退職の意思表示に錯誤があることが認められ右申立てが認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法627条1項
民法95条
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願と錯誤
裁判年月日 1999年5月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成11年 (ヨ) 10006 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労経速報1710号23頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-退職願-退職願と錯誤〕
 債権者が二度にわたって作成提出した退職願は、退職の意思表示といいうるところ、これらはA又はBから、懲戒解雇事由があることを告げられ、これを避けるための手段として自己都合退職を勧められてしたもので、債務者が任意に退職しなければ懲戒解雇となるものと信じてした意思表示ということができる。〔中略〕
 架空売上げを計上した部下については、第一次的な責任があることは明白であるのに、その負担した金額が補填されこそすれ、処分がされたことは窺われず、また、債権者の上司についても、その責任について検討されたことは窺われない。このように見てくると、債権者の責任は重いものの、債権者のみを処分の対象として懲戒解雇とするのは、処分の均衡を欠くものであり、疎明される他の事情を考慮しても、この結論を覆すものではない。してみれば、債権者には、懲戒解雇事由が存在したということはできない。
 3 以上によれば、債権者は、懲戒解雇事由が存在しないにもかかわらず、これがあるものと誤信し、懲戒解雇を避けるために、任意退職の意思表示をしたものであって、その意思表示には要素の錯誤があったということができる。したがって、右退職の意思表示は無効であり、債権者は未だ債務者に対する雇傭契約上の権利を有する地位にある。