全 情 報

ID番号 07340
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 大京ライフ事件
争点
事案概要  六五歳で定年退職した後、期間を一年とする雇用契約を更新して二年雇用された後に雇止めされた労働者が、期間の定めは形骸化していて期間の定めのないものになっていた等として地位保全・賃金仮払いの仮処分を申し立てたケースで、契約は期間の定めのないものになっていたとはいえない等の理由から、雇止めは有効であったとして右申立てが却下された事例。
参照法条 労働基準法2章
高年齢者の雇用の安定等に関する法律4条の2
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1999年5月31日
裁判所名 横浜地
裁判形式 決定
事件番号 平成10年 (ヨ) 1205 
裁判結果 却下
出典 労働判例769号44頁/労経速報1720号12頁
審級関係
評釈論文 小畑史子・労働基準53巻4号26~29頁2001年4月
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 原告は、被告に雇用される前にはイギリスで勤務した経験があること、その後、神戸市の実家に戻っていたが、阪神大震災後の神戸には適当な就職先がなく、東京で仕事をしたいとの希望を持ったので、都内に営業所を構え、英国企業との取引がある被告に雇用されたこと、ところが、原告は、平成八年九月、急に湯布院町への転勤を命ぜられ、その後、現地スタッフを採用するなどして、由布院美術館の開業準備の業務をほとんど一人で切り盛りすることを余儀なくされたこと、〔中略〕が認められ、右事実に証拠(<証拠略>)を合わせると、湯布院町に在勤中の原告が、A氏、B氏、C女史等に対して、早く湯布院町での勤務を終えて、ロンドン駐在になるか東京勤務に復帰したいといった趣旨の希望を述べたことを推認するに難しくない。
 しかし、原告が、業務に関連してではあるが、親しくなったこれらの者に対して、そのような希望を述べたからといって、前記のような原告の当時の状況からすれば、ある意味でもっともなことであって、同情を呼びこそすれ、原告の右行為をとらえて、被告の業務を妨げる行為とか職場の秩序を乱す行為に当たるということはできない。また、(証拠略)中、原告の言動によって被告の業務に非常な障害が生じたとする被告主張に沿う部分は、にわかに信用することができない。
 (二) 以上のとおりであるから、被告主張の懲戒事由(1)を認めることはできず、前記(一)認定の事実をもってしては、就業規則四四条三号、四号に該当するものということはできない。〔中略〕
 債務者は、債権者との間で、契約期間満了時に「嘱託雇用契約書」と題する契約書により雇用契約を更新したことが一応認められ、このように契約更新に当たり契約書を新たに交わしていることから、債権者と債務者との間の雇用契約における期間の定めが形骸化しているわけではなく、契約の更新が繰り返されることがあるからといって、右雇用契約が期間の定めのないものに変化したということができない。〔中略〕
 債権者は、DグループのE管理を定年退職した後に、同グループに属する債務者に雇用され、その際の嘱託雇用契約書二条には「債権者の雇用期間は、平成八年四月一日から平成九年三月三一日までとする。ただし、満了日の一ヶ月前までに債務者債権者双方のいずれかから別段の意思表示がなければ満了日から、さらに一年間本契約を更新することができるものとし、以降もこの例による。」と定められていたのであり、かつ、債務者の主張によれば、債務者は、嘱託管理員の契約を更新するかどうかを、管理員一人一人の業務内容を分析・検討し、管理員として不適格である場合には契約の更新を拒絶するが、問題のない場合には契約を更新したのであるから、債権者は、管理員として不適格でない限り、契約の更新を期待し得たのであるから、本件の契約更新拒否による雇止めにおいても、解雇権の濫用の法理の類推適用をすべきである。〔中略〕
 もっとも、特に六五歳以上の者の再雇用については、いわゆる働き盛りの年齢層の労働者とは異なり、労働者が年金等を受けていることや、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律四条の二が定年後の再雇用努力義務を六五歳までとしていること等債務者指摘の法律の規定もあり、解雇権の濫用の法理が類推適用されるといっても、自ずから程度の差はあるものというべきである。
 債権者は、清掃の不行届等、業務に支障があり、また、担当フロントであるFの指示に従っていないのであり、債権者は、管理員としての適格性に欠けるといわなければならない。そして、債務者のようなマンション管理会社にとっては、区分所有者による管理員に対するクレームや交代要求は管理契約の更新拒否すなわち業務の縮小に繋がる可能性のある事態であること(〈証拠略〉により一応認める。)、債権者は、E管理を六五歳の定年退職後に債務者に更新可能との条件付きで一年の期間で就職しており、管理員としての適格性に問題がある場合には契約が更新されないこともあることを認識し得たのであって、このことに月々二〇万五〇〇〇円の年金を受給していることを自認していることを考慮すると、債務者が債権者との契約の更新を拒否することに理由があり、更新拒絶が権利の濫用とはならないものというべきである。