全 情 報

ID番号 07341
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 千里山生活協同組合事件
争点
事案概要  生活協同組合の従業員及び従業員であった者が、時間外労働もしくは休日労働に対する割増賃金が支払われていないとして、右割増賃金と付加金を請求したケースで、タイムカード打刻時間で実労働時間を認定すべき実態があった等としてその請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法32条
労働基準法37条
労働基準法114条
労働基準法36条
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定方法
労働時間(民事) / 変形労働時間 / 一カ月以内の変形労働時間
雑則(民事) / 附加金
賃金(民事) / 割増賃金 / 違法な時間外労働と割増賃金
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / タイムカードと始終業時刻
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
裁判年月日 1999年5月31日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 693 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴後和解)
出典 労働判例772号60頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間-労働時間の概念-タイムカードと始終業時刻〕
 タイムレコーダーは、その名義の本人が作動させた場合には、タイムカードに打刻された時刻にその職員が所在したといいうるのであり、通常、その記載が職員の出勤・退勤時刻を表示するものである。そこで、特段の事情がないかぎり、タイムカードの記載する時刻をもって出勤・退勤の時刻と推認することができるもので、本件においても、右認定のとおり、これによって労働時間の管理がされ、タイムレコーダーの管理も全く杜撰であったとはいえない以上は、個々の原告らについて特段の事情の有無を検討することになるものの、原則として、これによって時間外労働時間を算定するのが合理的である。もちろん、タイムカードの記載は、職員の出勤・退勤時刻を明らかにするもので、右時刻が、職員の就労の始期・終期と完全に一致するものではないが、前記認定のとおり、給与を時間給で支払われるパート職員も、月給制の正職員も、出勤時及び退勤時にタイムレコーダーによってタイムカードにその時刻を打刻することとされており、パート職員の給与はタイムカードの記載によって計算され、正職員についても、皆勤手当の支給の有無(遅刻、早退等の有無)をタイムカードの記載によって管理しているというのであるから、タイムカードを打刻すべき時刻について特段の取決めがなされたとの事情の窺えない本件においては、タイムカードに記載された出勤・退勤時刻と就労の始期・終期との間に齟齬があることが証明されないかぎり、タイムカードに記載された出勤・退勤時刻をもって実労働時間を認定するべきである。〔中略〕
 認定事実によれば、原告伊藤の第一支所の物流業務時代のタイムカードの記載と現実の労働実態が異なるものであることを窺わせる特段の事情はないというべきであるから、タイムカードの記載によって原告伊藤の労働時間を認定するべきである。
〔賃金-割増賃金-違法な時間外労働と割増賃金〕
 各原告の労働実態は右のとおり認定できるところ、被告は、原告ら主張の労働実態があるとしても、原告らが任意に早出・残業をしていたのであるから時間外手当を請求する根拠とならないと主張する。しかし、前記認定のとおり、原告らの業務のうち、第一支所の物流業務、豊川倉庫における物流業務、各支所における共同購入運営部門の配達業務については、被告の指示による予定されていた業務量が終(ママ)業時間内にこなすことができないほどのものであり、そのために右各業務を担当した原告らが時間外労働に従事せざるを得ない状況にあったのであるから、原告らが従事した時間外労働は、前記説示において除外したものを除き、いずれも少なくとも被告の黙示の業務命令によるものであるというべきであり、被告の右主張は採用することができない。〔中略〕
〔労働時間-変形労働時間-一カ月以内の変形労働時間〕
 一か月以内の変形労働時間制を実施するには、使用者は、就業規則その他これに準ずるものに変形期間、変形期間内における法定労働時間の総枠、法定労働時間を超える日、週を規定する必要があり(労基法三二条の二)、変形期間は、起算日を明らかにして特定しなければならないこととされている(労働基準規則(ママ)一二条の二第一項)。
 被告は、共同購入運営部門や物流部門の職員については、部門別会議等の諸会合に諮った上で、勤務日程を、起算日を定めて一定期間分(一年間分等)を一括して予め設定する形にして各日、各週ごとの所定労働時間を特定した上で拘束時間を定めていると主張するが、具体的に何が就業規則に準ずるものであるのか、具体的な変形期間(一か月以内でなければならない)、その起算日、右期間内における法定労働時間の総枠等についての規定について何ら具体的に主張・立証していないから、一か月以内の変形労働時間制の主張には理由がない。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定方法〕
 被告は役職手当(職務手当、業務手当)が時間外手当を含むものであると主張するところ、役職手当等は時間外賃金以外のものを含むものであるが、時間外賃金を固定額で支払うこと自体は、その額が労基法所定の割増賃金額を超えるかぎり、これを違法とすることはできないものの、その場合でも、時間外割増賃金として労基法所定の額が支払われているか否かを判断できるように割増賃金部分が明確でなければならない。しかるに、本件では、右役職手当等のうち、いかなる部分が時間外割増賃金に該当するかを明らかにする証拠はないから、被告の右主張は採用できない。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われた賃金、一か月を超える期間ごとに支払われる賃金は算入されない(労働基準法三七条四項、労基則二一条)。これらは、提供する労務の質と無関係な個人の事情に着目した賃金であり、制限列挙と解される。そこで、賃金のうち、この除外賃金に当たること及び除外される金額については、使用者である被告が主張立証責任を負うというべきである。
 被告は、算定基礎額は基本給のみであり、扶養手当等を除外するべきであると主張するところ、その主張する扶養手当については除外賃金とされる家族手当と考える余地はあるものの、職務手当、技能手当等はこれが除外賃金に該当するとはいい難い。〔中略〕
〔雑則-附加金〕
 原告Xを除く原告らは、以上のとおりの時間外労働に対する未払賃金請求権を有しており、右未払は労基法三七条に違反するものであるが、これに関する被告の態度等、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、未払賃金に対する付加金の請求は相当と認められる。そして、付加金の請求は、使用者による違反のあった時から二年以内にしなければならないものとされ(労基法一一四条)、右期間は除斥期間と解されるから、原告らが支払を求める付加金のうち、本件訴訟提起(記録上、平成九年一月二八日であることが明らかである。)から二年より前に支払期のある賃金(平成七年一月二五日が支払期である平成六年一二月分まで)に対する部分については権利行使をすることはできない。