全 情 報

ID番号 07360
事件名 障害補償給付不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 品川労働基準監督署長事件
争点
事案概要  電気絶縁材料の卸売り販売を業とする会社の営業課長であった者が、勤務中に右中大脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症したことにつき、障害補償給付不支給処分を受け、右処分取消を請求したケースで、その者の動脈瘤がかなり脆弱化していたのに対し、この五年間は日常的な残業はあったものの、過激な仕事についていたとまではいえないとして棄却された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
労働基準法施行規則別表1の2第9号
行政不服審査法33条2項
労働者災害補償保険法36条
労働者災害補償保険法35条1項
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 関係書類の閲覧権
労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 審査請求との関係、国家賠償法
裁判年月日 1999年7月14日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (行ウ) 107 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例772号47頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 前記3で認定したところによれば、原告は、会社に入社した昭和五五年当時から既に高血圧傾向にあり、昭和五八年一〇月には高血圧状態に移行したが、その後昭和六〇年二月までの間、高血圧の治療を受けるなど、血圧の適切な管理を怠っていたこと、昭和六〇年二月に初めて高血圧に関して病院で受診し、以後本件発症に至るまでの間、継続的に降圧剤の処方を受けてはいたものの、その後も血圧値が正常範囲内で安定することはなかったが、これは、喫煙を続けたほか、飲酒量を控えたり、食事制限をするなど、適切な血圧管理を行わなかったことによって、降圧剤服用による治療効果が減殺されたためと考えられること、昭和六一年七月の成人病検診時には、高血圧のため一か月後に再検査を受けるよう指示されたものの、原告はこれを受検せず、また、その際、肥満度プラス三二という異常な数値や、肝機能障害の指摘も受けながら、その後も、禁煙をしたり、飲酒を控えることもなく、血圧管理を適切に行っていなかったこと、原告は本件発症当時五三歳で、脳動脈瘤の好発年齢にあったこと、以上の諸点を指摘することができ、これによれば、本件発症に至る相当以前から、動脈壁ないし動脈瘤の脆弱化がかなりの程度に進行していたものと推認される。〔中略〕
 本件発症当日の業務も、棚卸し作業は年に二回定期的に行っているものであり、A社の件に関する代表者に対する報告も平穏に行われ、その内容も、営業担当社員の社長に対する報告業務として、通常の業務の域を出るものではなかったものといえることが明らかである。
 (3) 以上の事情を総合考慮すれば、本件発症当時の原告の業務が、自然経過を超えて、急激に著しく脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の発症を促進させるに足りる程度の過重負荷となっていたものと認めることはできないというべきである。
〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-関係書類の閲覧権〕
 行審法三三条二項は、審査請求人は審査庁に対し処分庁から提出された書類その他の物件の閲覧を求めることができる旨定めているが、労災保険法三六条は、行審法第二章第一節、第二節(一八条及び一九条を除く。)及び第五節の規定を適用しない旨定めているから、同法三三条二項の規定は、労災保険法三五条一項による審査請求に適用されないことが明らかである。そして、関係法令上、他に、労災保険法三五条一項による審査請求について、審査請求人が処分庁から提出された書類その他の物件の閲覧を求めることができる旨定めた規定は見当たらない。したがって、被告審査官が、原告に対して、被告労基署長から提出された書類等の閲覧をさせなかったこと(右事実は当事者間に争いがない。)をもって、本件決定に瑕疵があるということはできない。
 2 労災保険法三五条一項による審査請求における鑑定については、行審法二七条は適用されず(行審法二七条は、労災保険法三六条が適用を排除した行審法の関係規定中に含まれる。)、労審法一五条一項三号が適用されるが、同項に定める処分は、審査官が「審理を行うため必要な限度において」行えば足りるものであるから、このことにかんがみると、鑑定人に鑑定をさせるかどうか、鑑定人に鑑定をさせることをせず、参考人から意見又は報告を徴するにとどめるかどうか、といった具体的事案における証拠資料の収集方法の選択については、審査官の裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。本件では、被告審査官がB医師に意見を求め、その他の医師に鑑定をさせなかったこと(右事実は当事者間に争いがない。)が、社会通念上著しく妥当性を欠き、審査官にゆだねられた右裁量権を濫用したものと認めるに足りる証拠はない。
〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-審査請求との関係、国家賠償法〕
 行訴法八条二項一号の規定が、審査請求から三か月以内に決定(裁決)をすべき旨定めたものと解することはできず、関係法令上、他に、審査請求から三か月以内に決定をすべきことを定めた規定は見当たらないから、本件決定が審査請求から約三年半後にされたこと(右事実は当事者間に争いがない。)をもって、これを違法とすべき根拠はない。