全 情 報

ID番号 07365
事件名 解雇無効確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 時事通信社(年休・懲戒解雇)事件
争点
事案概要  通信社の記者が、夏期の一か月間の年次有給休暇の申請に対して会社が後半二週間分を拒否し時季変更権を行使したにもかかわらず、約一カ月の休暇をとり勤務しなかったことを理由にけん責処分及び賞与の減額処分を受け、最高裁まで争って敗訴し、その最高裁判決後の記者会見で、会社を辞めるまで意地でも毎年一か月の夏休みをとろうと思っていると述べ、判決後、平成四年七月一七日に、同月二七日から八月二八日までの休暇届を出したのに対して、会社側が職務の代替は業務に支障を来すため最初の二週間しか年休は認めないとして時季変更権を行使したが、会社の就業命令を無視して欠務したことにつき懲戒解雇され、その効力を争ったケースの控訴審で、懲戒解雇を有効とした原判決が維持された事例。
参照法条 労働基準法39条4項
労働基準法89条1項9号
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1999年7月19日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ネ) 2499 
裁判結果 棄却(上告)
出典 時報1700号161頁/労働判例765号19頁
審級関係 上告審/最高二小/平12. 2.18/平成11年(オ)1534号
評釈論文
判決理由 〔年休-時季変更権〕
 労働者が長期かつ連続の年休を取得しようとする場合においては、それが長期のものであればあるほど、使用者において代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずるのが通常である。しかも、使用者にとつ(ママ)ては、労働者が時季指定をした時点において、その長期休暇期間中の当該労働者の所属する事業場において予想される業務量の程度、代替勤務者確保の可能性の有無、同じ時季に休暇を指定する他の労働者の人数等の事業活動の正常な運営の確保にかかわる諸般の事情について、これを正確に予測することは困難であり、当該労働者の休暇の取得がもたらす事業運営への支障の有無、程度につき、蓋然性に基づく判断をせざるを得ないことを考えると、労働者が、右の調整を経ることなく、その有する年休の日数の範囲内で始期と終期を特定して長期かつ連続の年休の時季指定をした場合には、これに対する使用者の時季変更権の行使については、右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない。もとより、使用者の時季変更権の行使に関する右裁量的判断は、労働者の年休の権利を保障している労働基準法三九条の趣旨に沿う、合理的なものでなければならないのであつ(ママ)て、右裁量的判断が、同条の趣旨に反し、使用者が労働者に休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理であると認められるときは、同条四項ただし書所定の時季変更権行使の要件を欠くものとして、その行使を違法と判断すべきである(最高裁判所第三小法廷平成四年六月二三日判決・民集四六巻四号三〇六頁参照)。〔中略〕
 被控訴人において、本件時季指定に係る時季が社会部員の多くが夏の年休を取得する期間と重なるため、当時の被控訴人の従業員及び執務体制等の下で控訴人が担当していた前記職務を社会部等において支障なく代替することが困難であり、業務を正常に運営することが妨げられるおそれがあると判断したことは相当なものとして是認することができるから、被控訴人が、控訴人の本件時季指定に係る休暇の一部について本件時季変更権を行使したことは、労働基準法三九条の趣旨に反する不合理なものであるとはいえず、同条四項ただし書所定の要件を充足するものというべきであるから、これを適法なものと解するのが相当である。〔中略〕
 本件時季変更権の行使は適法であるから、控訴人は、時季変更権を行使された八月一〇日から同月二四日までの間の勤務を要する一二日間について就業すべき義務を負っていたのであり、被控訴人から就業するよう業務命令を発せられていたにもかかわらず、右一二日間について勤務をしなかったのであるから、控訴人の右行為は、懲戒規程四条六号所定の「職務上、上長の指示命令に違反したとき」に該当するといわなければならない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 A総務局長が控訴人に対し、八月四日に本件時季変更権を行使するとともに八月一〇日以降就業すべき旨の業務命令を発し、同月八日にも、一〇日以降出社しないと面倒なことになる旨述べて控訴人に出社するよう促したにもかかわらず、控訴人がこれを無視して同日から同月二四日までの勤務すべき日において勤務をしなかったことを考慮すると、控訴人がA総務局長の業務命令に違反して八月一〇日以降勤務しなかったことは、職務上、上長の指示命令に違反した行為(懲戒規程四条六号)の中でも特に悪質と認められたときに当たり、かつ被控訴人に与えた損害としても大なるものがあるといわなければならず、控訴人の右行為は懲戒規程五条一四号に該当すると認めるのが相当である。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 本件懲戒解雇に際し、被控訴人が控訴人に弁明の機会を設けたことは窺えないが、控訴人がA総務局長の業務命令に違反して八月一〇日以降勤務しなかったことは簡明な事実であり、控訴人は前記最高裁判所判決直後の記者会見で「会社を辞めるまで、意地でも毎年一か月の夏休みを取ろうと思っている。」と述べ、同局長が八月四日に本件時季変更権を行使するとともに八月一〇日以降就業すべき旨の業務命令を発し、同月八日にも、一〇日以降出社しないと面倒なことになる旨述べて控訴人に出社するよう促したにもかかわらず、これに従わず、同月一〇日、同局長に電話で出社しない旨伝え、その後も同局長が出社して話し合いに応じるよう説得したが応じなかったものであり、また団体交渉は被控訴人の指定した日時について労働者委員会から異議があったため開催されなかったという事情の下では、被控訴人が控訴人に弁明の機会を設けなかったことをもって、本件懲戒解雇の効力を否定しなければならないほどの重大な手続上の瑕疵があったということはできない。