全 情 報

ID番号 07371
事件名 遺族補償費等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 東芝エンジニアリング・立川労働基準監督署長事件
争点
事案概要  火力発電所の現場に出張し宿舎で寝泊りしながら働いていた従業員が、同じ現場で働いていた他の会社の従業員の送別会で飲酒し、宿舎に帰った後で行方不明となり、数日後近くの川で溺死しているのが発見されたケースで、遺族が、遺族補償不支給決定の取消しを請求したところ、右災害は、業務と関係のない、自己の意思に基づく私的行為により自ら招来したものであるとして、棄却された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 出張中
裁判年月日 1999年8月9日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (行ウ) 4 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例767号22頁
審級関係
評釈論文 西村健一郎・月刊ろうさい51巻3号4~7頁2000年3月
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-出張中〕
 労働者が出張中の場合には、特別の事情のない限り出張過程全般について使用者の支配下にあるものとして業務遂行性が認められるといえるが、本件においても、Aは、会社の業務出張指示書に基づき出張を命ぜられて出張先で業務に従事していたものであるから、約四か月半継続して出張中の宿泊先として借りたドライブイン旅館の一室で起居していたからといって、広野発電所での行為以外のAの行為に業務遂行性が失われているということはできないというべきである。
 ただし、出張中の行為であっても、積極的な私的行為等が行われた場合には、事業主の支配関係から脱したものとして業務遂行性は失われるといえる。
 そこで、まず、本件会合への参加に業務遂行性が認められるかについてみるに、本件会合は、前記認定のとおり一緒に仕事をした他社の従業員を送別する趣旨で会社従業員の有志が企画し、回覧を回して任意で参加者を募り、広野発電所での勤務終了後に会費制で行われ、幹事が開会の挨拶をし、閉会も挨拶なしの流れ解散であったもので、このような本件会合の趣旨及び開催の経緯からすれば、本件会合への参加に業務遂行性があるとは認められない。〔中略〕
 Aは、本件災害時の血中アルコール濃度が右のとおりであること及び本件会合でも他社従業員との口論の後悔し泣きするなど精神的抑制がとれて感情が昂進していた事実が認められることからすれば、本件会合での飲酒により中等度の酩酊状態となっていたものと認められ、その後入浴したことにより酔いが増幅され、自らの意思に基づき全裸のまま外出し、知覚鈍麻の状態で宿舎付近を徘徊するうちに、体勢を崩すなどして、川に滑り落ち、運動失調の状態からそのまま溺死するに至ったものと認められる。
 したがって、本件災害は、Aの業務とは関連のない、自己の意思に基づく私的行為により、自ら招来した事故によるものであって、業務起因性は否定されるというべきである。