全 情 報

ID番号 07379
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 京都ヤマト運輸事件
争点
事案概要  運輸会社で運転手募集の新聞広告を見て応募し、アルバイトと称して雇用され、営業課長から様子を見て社員に採用する、その間はおおむね三か月であるといわれていた者が、連帯労組に加入したことから本採用できないとされ、正社員としての地位確認を求め、さらに残業手当、大型車乗務、賞与の支給において差別的な取扱いを受けたとしてそれらの支払ないし損害賠償を求めたケースで、右正社員としての地位確認の請求が認容され、また大型車乗務に配車しないことを差別的取扱いとして奨励手当の差額についての損害賠償をを認め、その他についての請求については棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
裁判年月日 1999年9月3日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 12408 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例775号56頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-試用期間-法的性質〕
 原告自身、身分はアルバイトというAの説明やその後の賃金が時給であったこと等から正規の従業員であるとの認識はなく、雇用保険等も当初から適用されるものでないことを承知していたのである。
 これらの諸事情に照らすと、同月二二日からの雇用が、すでにその時点で正社員としての雇用契約に基づくものであったとは到底認められない。
 また、原告は、三か月の間に原告の社員としての適格性に問題がないことを停止条件とする正社員としての雇用契約であったとも主張するが、右の諸事情に照らすと、条件付きとはいえ、同月二二日の時点で、確定的な雇用契約が締結されたと認めることは困難である。〔中略〕
 原告は、その後、原被告間で原告を正社員とする雇用契約が締結されたことを主張しておらず(証拠上も、そのような事実は認められない)、そうすると、三月二二日より後のいずれかの時点で、原被告間に副社員としての雇用契約が締結されたというほかない。その時期がいつかは、証拠上必ずしも明らかとはいえないが、被告が同年四月一六日の時点で原告に社会保険等を適用するようになったこと、その際、内部的にではあるが原告を副社員として処遇していたこと、右時点において原告に臨時員雇用契約書を提出させていること等が認められるほか、右のとおり、原告は、予備的にではあるが、被告の主張を容認していることなどからして、右同日、副社員としての雇用契約が成立したものというべきである。〔中略〕
 副社員は、単なる期間雇用と異なり、正社員登用を目的とする試雇社員と定義されていること、現実の運用上も、副社員は、社員としての種別であることが明らかな準社員や契約社員などと異なり、勤務内容等や月例賃金は正社員と同等であること、正社員登用時には正社員採用通知書が交付されるといっても、他に格別の手続がなされるものではなく、提出書類も副社員採用時のものがそのまま流用されており、そうすると右通知書の交付も、その時点で新たに副社員とは異種の正社員としての雇用契約を締結したことを証するものというよりは、被告が一方的に労働条件の変更を通知するだけの辞令にすぎないと認められること、副社員就業規則制定後の正社員の採用は、副社員雇用契約を経由して行うことが一般的となっていることなどからすると、副社員が、正社員採用のための試用期間であることは明らかというべきであり、副社員と正社員とが全く種別の異なる社員であるとすることはできず、むしろ、正社員として登用された場合の従業員の地位はその前後で連続性を有するものと解される。〔中略〕
 副社員は、期間の定めがない雇用契約であることを前提に、被告において広い裁量権のある解約権を留保する趣旨のものであると解するのが相当であり、正社員とは別種の従業員であるという被告の主張は採用できない。
 そして、右のように解するときは、留保された解約権が行使されたと認められない限り、試雇期間の経過によって解約権は消滅し、被告と副社員との雇用契約は、解約権留保の存しない雇用契約である正社員としての雇用契約に移行するものというべきである。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 原告は、一日当たり六時間を乗じた保証残業日額について当月の出勤日数(ママ)に乗じた金額の残業手当の支給が慣行となっていたと主張するが、そのような慣行を認めるに足りる証拠はない。〔中略〕
 よって、未払の残業手当があるとして、未払賃金または損害賠償としてその支払を求める原告の請求は理由がない。〔中略〕
 現に大型車乗務をしていない原告には、大型車乗務をした場合に支給される奨励手当と現に支給された奨励手当との差額を未払賃金として請求できる権利があるとは認められない。
 (三) 他方、右の認定事実によれば、原告と同時期採用の中型車運転手のみならず、原告より後に採用された中型車運転手でさえもすでに大型車乗務に配置されており、原告が大型車乗務を希望しながら未だにその希望が実現されていないのは、まことに不可解というほかない。
 この点について、被告は、いかなる従業員をいかなる部署に配置するかは、使用者である被告の裁量に属することであるし、原告を大型車乗務に配置しないのは、原告が近距離乗務を希望していること、原告が本件事故を起こしたことなどによるものである等と主張し、Bの陳述書(<証拠略>)には、原告を大型車乗務に配置しない理由について、被告の右主張に沿う記載がある。
 しかしながら、原告は近距離乗務だけを希望したことを否定し、陳述書(<証拠略>)にも同旨を記載しているほか、本件事故は、原告が原動機付自転車を運転していた際の事故であって(<証拠略>)、そのことから直ちに原告の大型車乗務員としての適正に疑問があるとはいえない。また、原告本人尋問や陳述書(<証拠略>)によれば、被告は大阪地方労働委員会の命令が発令される以前の連帯労組との団交では、原告を大型車乗務させることを認めていたのに、同委員会の命令が出された後は原告の大型車乗務について触れなくなったことが認められる。これらに照らすと、原告を大型車乗務に配置しないことの理由が、被告が主張し、Bが右の陳述書に記載しているような経緯によるものとは認められない。
 そして、被告が、原告の過去の連帯労組所属歴が判明した平成七年五月末ころの時点から、そのことを理由に採用拒否を表明していたことや平成八年三月ころ以降正社員登用の条件として連帯労組脱退を持ち出していることなどを併せ考えると、被告が原告を大型車乗務に配置しないのは、原告が連帯労組に加入していることを理由とするものであると推認できる。そのような理由による不利益扱は、人事に関する裁量権限の逸脱であることは明らかであり、労働組合法七条一号に違反し、不法行為に該当すると解される。〔中略〕
 前記のとおり、原告は平成八年四月一六日には、被告の正社員たる地位を取得していたと認められ、それ以後は正社員としての賞与の支給を受け得たものというべきである。
 しかしながら、第四の一1(一)に認定したとおり、就業規則上、正社員の賞与については、支給額及び支給基準はその都度定めることとされており、弁論の全趣旨によれば、被告は、運輸労組に所属する正社員に対しては、同労組と団体交渉のうえ妥結した基準により支払ったことが認められるものの、同労組に加入していない原告が、これと同等の賞与の請求権を当然に有するものとしなければならない理由はない。
 よって、原告の請求は理由がない。