全 情 報

ID番号 07394
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 全日本空輸(退職強要)事件
争点
事案概要  航空輸送を業とする会社でスチュワーデスとして勤務し労災事故で約三年三か月休業した後復職したが、復帰者訓練を受けたが不合格と判定され、労働能力の著しい低下等を理由に執拗に退職勧奨を受けて解雇された者が、右解雇を無効であるとして、地位確認及び損害賠償等の請求をしたケースで、解雇には合理的理由がないとして解雇権濫用に当たり無効であるとされ請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法709条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
解雇(民事) / 解雇権の濫用
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1999年10月18日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 9953 
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例772号9頁
審級関係
評釈論文 大石玄・労働法律旬報1488号56~62頁2000年9月25日
判決理由 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 労働者がその職種や業務内容を限定して雇用された者であるときは、労働者がその業務を遂行できなくなり、現実に配置可能な部所(ママ)が存在しないならば、労働者は債務の本旨に従った履行の提供ができないわけであるから、これが解雇事由となることはやむを得ないところである。そして、客室乗務員としての業務は、通常時における業務のほか、緊急時における措置、保安業務、救急看護措置等の業務を含むものであって、高度の能力を要求される業務であり、緊急時における措置等の適否が、万が一の場合には、人命に直結するものであることからすると、かかる部分における業務遂行能力は、これをおろそかにはできず、これを欠いたままで乗務させることはできないものといわなければならない。しかしながら、労働者が休業又は休職の直後においては、従前の業務に復帰させることができないとしても、労働者に基本的な労働能力に低下がなく、復帰不能な事情が休職中の機械設備の変化等によって具体的な業務を担当する知識に欠けるというような、休業又は休職にともなう一時的なもので、短期間に従前の業務に復帰可能な状態になり得る場合には、労働者が債務の本旨に従った履行の提供ができないということはできず、右就業規則が規定する解雇事由もかかる趣旨のものと解すべきである。むろん、使用者は、復職後の労働者に賃金を支払う以上、これに対応する労働の提供を要求できるものであるが、直ちに従前業務に復帰ができない場合でも、比較的短期間で復帰することが可能である場合には、休業又は休職に至る事情、使用者の規模、業種、労働者の配置等の実情から見て、短期間の復帰準備時間を提供したり、教育的措置をとるなどが信義則上求められるというべきで、このような信義則上の手段をとらずに、解雇することはできないというべきである。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 本件において、原告には、就業規則の解雇事由である「労働能力の著しく低下したとき」に該当するような著しい労働能力の低下は認められないし、また、就業規則が規定する解雇事由に「準じる程度のやむを得ない理由があるとき」に該当する事由もこれを認めることはできない。
 (四) 以上によれば、本件解雇は就業規則に規定する解雇事由に該当しないにも関わらずなされたものであって、合理的な理由がなく、解雇権の濫用として無効というべきである。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 被告会社のA、B、C、D、Eといった原告の上司にあたる者たちが、平成七年五月二二日以降、九月ころまで、約四か月間にわたり、原告とその復職について、三十数回もの「面談」「話し合い」を行い、その中には約八時間もの長時間にわたるものもあったこと、右「面談」において、Aらは、原告に対し、CAとしての能力がない、別の道があるだろうとか、寄生虫、他のCAの迷惑、とか述べ、原告がほとんど応答しなかったことから、大声を出したり、机をたたいたりした。またこの一連の面談のなかには、原告が断っているにもかかわらず、原告の居住する寮にまで赴き行ったものが何回かあった。また原告の兄や島根県に居住する原告の家族にも直接会って、原告が退職するように説得をしてくれとも述べていた。
 かかる原告に対する、被告会社の対応をみるに、その頻度、各面談の時間の長さ、原告に対する言動は、社会通念上許容しうる範囲をこえており、単なる退職勧奨とはいえず、違法な退職強要として不法行為となると言わざるを得ない。