全 情 報

ID番号 07397
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 上州屋事件
争点
事案概要  被告会社のJC敦賀店の店長であった原告が、顧客との間で数々のトラブルを起こしていたこと等を理由に自宅待機を命じられ、後に谷和原流通センター流通部への異動を命じられるとともに、職務等級を五等級から四等級に降格されたことに対して、右降格処分は違法であり、元の地位にあることの確認請求を求めるとともに、休職について慰謝料を請求したケースで、休職が相当な手続によって命じられたとはいえないとして慰謝料は一部認められたが、降格異動については権利濫用に当たらないとして請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法709条
民法710条
労働基準法39条
体系項目 労働契約(民事) / 人事権 / 降格
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1999年10月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 26438 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例774号12頁
審級関係
評釈論文 柴田洋二郎・法学〔東北大学〕65巻1号113~118頁2001年4月/小畑史子・労働基準52巻8号22~26頁2000年8月/上田谷恒久・季刊労働法195号141~145頁2001年3月/新谷眞人・法律時報73巻2号95~98頁2001年2月/藤内和公・民商法雑誌122巻2号92~100頁2000年5月
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 本件雇用契約を締結する際、職種を限定する旨の合意をしたことを直接認めるに足りる証拠はない上、被告の就業規則八条には、被告は従業員に対し、就業場所、職種の変更を伴う異動を命じることがあり、従業員は正当な理由なくこれを拒否することができない旨規定されている(〈証拠略〉)。このことからすると、本件雇用契約当時、原告と被告は、就業場所や職種の変更を伴うことを前提として本件雇用契約を締結したものというほかない。
〔労働契約-人事権-降格〕
 本件降格異動が原告の販売店店長としての適性欠如、管理職としての部下の管理能力欠如、金銭管理のルール違反といった原告が従事していた職務との関連での不適格性を理由として行われたものであること(前記一4(二))、本件降格異動の際には、通常の人事発令が行われたものと推認できること(〈証拠略〉)からすると、本件降格処分は、懲戒権の行使ではなく、人事権に基づき本件降格異動を行ったものと認められる。
 そして、一般には、使用者には、労働者を企業組織の中で位置づけ、その役割を定める権限(人事権)があることが予定されているといえるが、被告においても、就業規則八条において「業務上の都合により、従業員に対して就業する場所もしくは従事する職務の変更、転勤、出向等異動を命ずることがある。」(〈証拠略〉)と規定しており、したがって、本件においても、被告は、その主張のとおり、人事権を行使することにより、労働者を降格することができる。〔中略〕
 本件降格異動は、被告において人事権の行使として行われたものと認められるところ、こうした人事権の行使は、労働者の同意の有無とは直接かかわらず、基本的に使用者の経営上の裁量判断に属し、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められない限り違法とはならないと解せられるが、使用者に委ねられた裁量判断を逸脱しているか否かを判断するにあたっては、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度、労働者の受ける不利益の性質及びその程度等の諸事情を総合考慮すべきである。〔中略〕
 被告が原告を店長として不適格と判断し、金銭を取り扱わず、接客業務もない谷和原流通センターへ原告を異動させたことには、職種の変更を伴うものであるとはいえ、合理的な理由があったというべきである。もっとも、本件降格異動に伴い原告の給与は職能給と役職手当を併せて約九万円の減給となっており、原告の不利益は小さくはないが、職務等級にして一段階の降格であることや原告の店長としての勤務態度に照らせば、やむをえないものというほかない。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 原告の自宅待機の期間を休職扱いとしたことについてであるが、被告は原告に対し、自宅待機を命じた際、それを休職とする旨告げておらず、本件降格異動の発令後、原告が勤務を再開する際、休職から復職する際の就業規則上の手続も行われていない(前記一4(二))。また、被告は、原告の承諾なしに、原告の有給休暇と代休を休職期間の一部に充てている(前記一4(二))。
 これらの事実からすると、被告の内部において、原告の処遇についてなかなか意見がまとまらず、二か月を要したことはやむをえない面があるとしても、被告が原告に対し、相当な手続によって休職を命じたとはいえず、その期間を原告の承諾なく一部有給休暇及び代休として処理したことは、被告の就業規則に反し、労働者の希望する時期に有給休暇を与えなければならないとする労働基準法三九条に反する。
 したがって、被告の右行為は不法行為に該当するというべきであるが、本件記録上認められる諸般の事情を総合的に考慮すれば、慰謝料として三〇万円が相当である。