全 情 報

ID番号 07405
事件名 異動命令無効確認等請求上告事件
いわゆる事件名 ケンウッド事件
争点
事案概要  東京都品川区に居住し、目黒区の会社本部から八王子の事業場の同一部門に配転になった女性従業員が、通勤時間が長くなり、三歳の幼児の保育園送迎ができなくなり、家庭生活も破壊されるとしてこれを拒否し、長期間(三六日間)出勤しなかったため停職処分を受け、後に懲戒解雇されたケースの上告審で、第一審と同様、右停職処分及び懲戒解雇を適法とした原判決が相当であるとして女性従業員の上告が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 2000年1月28日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (オ) 128 
裁判結果 棄却(確定)
出典 裁判所時報1260号8頁/労働判例774号7頁/労経速報1722号26頁
審級関係 控訴審/06566/東京高/平 7. 9.28/平成5年(ネ)3848号
評釈論文 山崎隆・労働判例779号6~12頁2000年6月1日/小畑史子・労働基準53巻6号34~49頁2001年6月/松尾嘉倫・平成12年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1065〕374~375頁2001年9月/水町勇一郎・法学〔東北大学〕64巻4号126~131頁2000年10月/杉井静子・法学セミナー45巻7号68~71頁2000年7月/菅野淑子・法律時報72巻11号102~105頁2000年10月/斉藤誠、松井繁明、今野久子・労働法律旬報1486号11~15頁2000年8月25日/村松洋介・季刊労働
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 被上告人の就業規則には、「会社は、業務上必要あるとき従業員に異動を命ずる。なお、異動には転勤を伴う場合がある。」との定めがあり、被上告人は、現に従業員の異動を行っている。上告人と被上告人の間の労働契約において就労場所を限定する旨の合意がされたとは認められない。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 右事実関係等の下においては、被上告人は、個別的同意なしに上告人に対しいずれも東京都内に所在する企画室から八王子事業所への転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきである。もっとも、転勤命令権を濫用することが許されないことはいうまでもないところであるが、転勤命令は、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても不当な動機・目的をもってされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、権利の濫用になるものではないというべきである(最高裁昭和五九年(オ)第一三一八号同六一年七月一四日第二小法廷判決・裁判集(民事)一四八号二八一頁参照)。本件の場合は、前記事実関係等によれば、被上告人の八王子事業所のAプロジェクトチームにおいては昭和六二年末に退職予定の従業員の補充を早急に行う必要があり、本社地区の製造現場経験があり四〇歳未満の者という人選基準を設け、これに基づき同年内に上告人を選定した上本件異動命令が発令されたというのであるから、本件異動命令には業務上の必要性があり、これが不当な動機・目的をもってされたものとはいえない。また、これによって上告人が負うことになる不利益は、必ずしも小さくはないが、なお通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえない。したがって、他に特段の事情のうかがわれない本件においては、本件異動命令が権利の濫用に当たるとはいえないと解するのが相当である。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 本件異動命令に従わなかったことを理由としてされた本件各懲戒処分には、所論の違法はないものというべきである。