全 情 報

ID番号 07443
事件名 雇用関係不存在確認請求事件、雇用関係存在確認等反訴請求事件
いわゆる事件名 済生会・東京済生会中央病院(定年退職)事件
争点
事案概要  社会福祉法人Xが支部Aで雇用し、病院Bの事務局事務次長に任命後、参事に任命、更に同病院の総務部長に任命したYを病院Bの就業規則に規定に基づいて定年六〇歳に達したことを理由に定年退職扱いとしたが、Yが、Yは支部Aの管理職の職位である参事として雇用されたのであって、支部Aの就業規則が適用されるべきで、その定年は支部Aの就業規則で定められている七〇歳である等と主張して定年退職につき争ったため、(1)XがYに対して、雇用契約関係不存在の確認を請求した(本訴)のに対し、(2)YがXに対し、支部A参事及び病院B総務部長としての雇用契約上の地位確認及び賃金支払を請求した(反訴)ケースで、(1)本訴請求に関しては、確認の利益を欠く不適法な訴えであるとして請求が却下されたが、(2)反訴請求に関しては、Yは、支部Aとの雇用契約に基づいて、病院Bの総務部長の職位を有するとともに支部Aの参事の職位をも有することになったとして、Yは支部Aと病院B双方の就業規則の適用を受けるが、定年に関する両者の規定が異なることから、七〇歳の定年制を採用する支部Aの定年条項が適用されるべきであるとして、地位確認及び賃金支払の請求(将来分については不適法却下)が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法89条1項
体系項目 退職 / 定年・再雇用
就業規則(民事) / 就業規則と適用事業・適用労働者
裁判年月日 1999年8月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 23701 
平成10年 (ワ) 7795 
裁判結果 却下(23701号)、一部認容、一部却下(控訴)
出典 労働判例777号61頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則と適用事業・適用労働者〕
 就業規則は、企業経営の必要上労働条件を統一的、かつ、画一的に決定するものであるが、企業における個々の事業場を単位として作成、届出がされるものであり(労働基準法八九条、九〇条、九二条参照。なお、労働組合法一七条参照)、それが合理的な労働条件を定めているものである限り法的規範としての性質を認められるが(最高裁判所昭和四三年一二月二五日大法廷判決民集二二巻一三号三四五九頁)、これも就業規則が制定された当該事業場内の労働契約関係を規律するものにほかならない。したがって、同一企業であっても、事業場が異なるのであればそれぞれ異なる内容の就業規則を制定することは可能であるが、それぞれ合理的な労働条件を定めているものであることを要するし、就業規則の規定内容が異なることが取りも直さず労働基準法三条、四条に違反することとなるのであれば、その部分が無効となるというべきである。
 (二) さらに、同一の事業場に勤務する労働者の中に職種、職務内容が異なる者がいる場合に、その違いに応じてそれぞれ異なる内容の就業規則を制定することも、それが合理的な労働条件を定めているものであり、かつ、労働基準法三条、四条に違反しない限り、適法であると解するのが相当である。職種、職務内容の違いに応じて異なる労働条件を定めること自体は適法と解すべきだからである(なお、労働基準法八九条一〇号参照)。
 (三) 同一の事業場に勤務する労働者の中に職種、職務内容が異なる者がいて、職種、職務の違いに応じてそれぞれ異なる内容の就業規則が制定されている場合において、その異なる職種、職務を兼務する労働者がいるときは、各就業規則の中に適用関係を調整する規定があればそれによってどの規定を適用するかを決すべきであるが、調整規定がなければ、労働条件を統一的、かつ、画一的に決定する就業規則の性質に照らし、各就業規則の規定の合理的、調和的解釈により、その労働者に適用すべき規定内容を整理、統合して決定すべきである。この解釈に当たっては、各就業規則制定当時の状況、制定に至る経緯、解釈を必要とする当該各規定の趣旨等を考慮し、各就業規則を制定した使用者の合理的意思を探究して行うべきであるが、そのまま異なる内容の規定を重畳的に適用すると相互に矛盾抵触するものがあり、右の合理的、調和的解釈に努めても解決できないときは、その労働者にとってより有利な内容の規定が適用されるものと解するのが相当である。労働基準法九三条は、労働条件に関し就業規則の規定と労働契約の合意内容とに不一致があり、かつ、後者の合意内容が前者の定める基準に達しない場合についての規定であって、右に述べた重畳的に適用される就業規則の各規定内容に不一致がある場合を直接規定しているものではないが、同条の示している解決の仕方は、このような場合にも準用することが相当だからである。
〔退職-定年・再雇用〕
 被告が六〇歳に到達した平成九年二月一一日の時点では、B病院就業規則(〈証拠略〉)が六〇歳(管理職を含めるか否かにつき争いがあるが、B病院就業規則(〈証拠略〉)三〇条の文言に照らし、管理職も含まれるものと解するのが相当である。また、不利益変更に当たるか否かについてはひとまずおく。)の定年条項を規定するに至っており、この定年条項は、Aの管理職である被告にとって、A就業規則(〈証拠略〉)が管理職につき七〇歳の定年を定めている規定を有利に変更するものではないから、A就業規則(〈証拠略〉)の定年条項が適用されるものと解するのが相当である。